ゴールデンハート賞(ロマンス小説界の新人賞?)を獲ったという、この作者のデビュー作で Secrets of Charlotte street シリーズの1作目。ちょっぴり病んでて痛みを求めてしまうヒーローの、SM風味のヒストリカル。こういう支配や服従の関係はなかなか複雑な心理が働いていると思うので、納得がいくようにうまく書いてあれば興味深いけど、きちんと書いている作品は少なくて、流行ってるからちょっとSM要素を入れてみた、くらいの作品が多いんじゃないかな。今作は原書の評判は良さそうなので期待したけれど、やはり新人が書くには難しいテーマなのか、いまひとつ掘り下げ方が足りなくて、お互いの利益のために結婚したカップルが愛を見つけるという普通の便宜結婚ものに、変化を付けるためにSM要素を盛り込んだという感じだった。以下ネタバレ注意。
ヒーローは火事で妻子を亡くしたことから自分を罰せずにいられなくて、鞭打たれているうちにそっちの方面に目覚めて(?)しまい、秘密のクラブに通っている。自分を責めていて、幸せになる資格はないと思っているけど、公爵なので跡継ぎが必要だから、公爵家の財産にしか興味のない女性と愛のない結婚をしようと思っている。
ヒロインは貴族の血筋ではあるけど、親を亡くして親戚の家に身を寄せ、園芸家として商売をしている。ヒロインの植物に対する情熱や、自活することを重んじている姿勢は一本筋が通っていて説得力があった。商売の才覚があり、自分の仕事に誇りを持っていて、前半、公爵家のパーティーの際に屋敷を花で飾るために雇われて仕事をしている時はプロフェッショナルな感じで良かったんだけど、ヒーローと結婚してからはキャラがブレてきて、自分本位で幼稚な行動が鼻につき残念だった。便宜結婚ものの典型で、愛のない結婚をしておきながら、結婚後、相手を愛していることに気づいて苦悩するんだけど、ことあるごとにお互いにひどいことを言って傷つけあっているのがイタい。
ヒーローの境遇から、マゾヒスティックな趣味に走ってしまったのは一応納得できるけど、ヒロインがヒーローの秘密を知って急に鞭に興味津々になったのには笑った。これはちょっと安易すぎて説得力がないと思うわ。こういう壊れたヒーローには、そこにぴったりはまるヒロインがいてこそ、破れ鍋に綴じ蓋でハッピーエンドになれると思うのだけど、この2人はあまりそういう感じがしなくていまひとつだった。
新人作家にしては健闘しているほうで、ヒーローが支配される側というのも珍しいし、それなりに面白かったけど、デビュー作だけにやや稚拙なところもあり、あと一歩かな。今後に期待しよう。
The Duke I Tempted (The Secrets of Charlotte Street)
- 作者: Scarlett Peckham
- 出版社/メーカー: CreateSpace Independent Publishing Platform
- 発売日: 2018/06/18
- メディア: ペーパーバック