14年前の警官の汚職にまつわる殺人の謎を解き明かすミステリー。とは言え、作者は、犯人捜しよりも、事件を取り巻く人々の人間ドラマをより重視して書いているように思う。実際、黒幕は意外な人物でもなく、汚職事件で通常考えられるシナリオ通りの展開なんだけど、事件そのものと同じくらい、その家族に与えられた影響の深刻さが克明に書かれていて、父親が陰謀に巻き込まれ、濡れ衣を着せられて汚職警官として殉職したため、町を出て貧しい暮らしを送る羽目になったヒロインの辛い状況や、身内が不正に関与しているかもしれないと知り葛藤するヒーローの苦しみが非常にリアルで読み応えがあった。主役の2人ともまだ若く、親のしたことで大きな苦境に立たされ、試練を乗り越える過程で成長していくので、YA小説のような雰囲気もある。暗めのストーリーの中で、2人の間に芽生えたロマンスが清涼剤のようだった。
地味で重い話で展開もゆっくり目だけど、事件に関係する色々な立場の人たちの状況が様々に絡み合っていて興味深く、主人公の感情も深く掘り下げて書いてあるので、かなりの頁数にもかかわらず、退屈することなく読み通せた。たまにはこういう毛色の違うミステリーも良いと思う。ヒロインにしてみれば、父親の汚名をそそぐことが出来て報われたけれど、身内を告発しなければならなかったヒーローは辛い状況で、単純なハッピーエンドというわけにはいかないけれど、2人が一緒なら乗り越えていけるだろうという希望の見えるエンディングで、後味の悪さはあまりなく、ほろ苦い結末が却って印象的だった。
あなたを守れるなら (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))
- 作者: K・A・タッカー,寺尾まち子
- 出版社/メーカー: 二見書房
- 発売日: 2018/10/22
- メディア: 文庫
Keep Her Safe: A Novel (English Edition)
- 作者: K.A. Tucker
- 出版社/メーカー: Atria Books
- 発売日: 2018/01/23
- メディア: Kindle版