ヒーローはギャングのボスの息子で、汚れ仕事を請け負うフィクサー。復讐のためには殺人も辞さない。暗めの雰囲気のロマンスだけど、ヒロインが割と肝の据わった根性のある女性なので、そこまで陰鬱な感じではなかった。サスペンス要素は少なめで、手短に言えば、契約結婚で極道の妻になった若いヒロインが夫を手なずける(?)話。
いきなりヒーローが父親の仇を討つために神父を刺し殺す場面から始まって度肝を抜かれたけれど、残忍なところも手加減せずに描写するほうが変に生ぬるいよりも良いと思う。これだけ残酷なことを平気でできる恐い人なのに人を惹きつける魅力もあり、存在感のあるキャラクターだった。作者はダークなヒーローを書くのが得意らしいけど、いかにもという感じ。ヒロインのキャラクターもなかなか良かった。父親にギャングの息子と結婚させられ、最初は抵抗するけれど、彼のことを知るにつれ好きになっていき、最終的には残忍なところも含めて彼のすべてを受け止める度量の広さは立派なもの。気は強いけど、蓮っ葉な感じではなく、働き者で清純なタイプだから好感が持てる。
契約結婚から愛が芽生えるというのはロマンス小説の典型的なパターンだけど、相手がギャングなだけに怒涛の結婚生活という感じで、二人の愛憎入り混じる応酬がドラマティックで面白かった。気骨のあるヒロインを称賛しながらも、威圧的な態度で彼女の気持ちを弄んでいるヒーローは、悪い男の危険な魅力に溢れていて、意に反して夫に惹かれてしまい葛藤するヒロインの気持ちがよくわかる。2人の視点が交互に書かれているので、あまり感情を表に出さないヒーローの、妻に対する気持ちの変化もわかりやすく、ドSなヒーローが最後には妻にメロメロになるのが楽しかった。
- 作者: L.J. Shen
- 発売日: 2016/03/08
- メディア: Kindle版