ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

密やかな愛へのいざない セレステ・ブラッドリー

 セレステ・ブラッドリーは、昔ソフトバンク文庫から出ていたけど最近は翻訳されておらず、既に忘れ去られた作家だと思っていたら、久しぶりに新作が出たのね。今作は、変わり者のワーシントン家の人々を主人公にしたWicked Worthingtonsシリーズの1作目で、変人揃いの一家の行き遅れの長女のヒロインと、元諜報員で任務のせいで死にかけて、顔と体が傷だらけのヒーローのロマンス。ヒーローが所属していた組織がライアーズ・クラブとのことで、ラズベリーブックスが以前Liar's Clubシリーズの1作目「私を見つけるのはあなただけ」を出していたけど、今作に「私を見つける~」の主人公も少し顔を出していて、思いがけないところに繋がりがあった。

 読み始めは展開が唐突すぎて、いまひとつ話に入り込めなかった。ヒロイン一家はなぜか嵐の日に馬車で移動中、川に落ちて溺れそうになり、どういうわけか勝手にヒーローの屋敷に上がり込む。ヒロインが濡れた服を脱いで下着姿で屋敷をうろうろしているところにヒーローが来て体を触られ、それをヒロインの兄が見つけて、すったもんだで結局2人は結婚することに。なんだかよく状況がのみ込めないうちに話がどんどん進んでいくので少々困惑した。それに変わり者の一家と言っても、たいていは家族仲は良く団結しているものだけど、ヒロインの家族は本当に変人ばかりで仲が良いのか悪いのかよくわからず、人数も多すぎて理解不能の謎集団だった。ヒーローが傷だらけの世捨て人なので暗いストーリーかと思いきや、一本ネジの外れたような天然のヒロインがドタバタと騒動を起こす予想外にユーモラスな展開に、話の行き着く先が読めない。ヒーローが元諜報員だからサスペンス系だと思い込んでいたけれど、どうやら違うらしい。思うにこの作者は脇役についての説明が少なめなので、その人物がどういう立ち位置なのか見極めるのが難しく、掴みどころがないように感じるのだと思う。主役2人の心情に関しては割と細やかに書かれているのでロマンスとしては悪くない。最初はわけがわからず何だこれはと思ったけど、読み進むうちにだんだん面白くなっていった。壮大な陰謀というわけではないけれど、ヒロインが命を狙われるちょっとした事件も起きて盛り上がり、なかなか楽しかった。

 ロマンスはまさに美女と野獣のストーリーで、顔にグロテスクな傷のあるヒーローが、ヒロインに自分を求めてもらうには欲望でいっぱいにするしかないと、暗闇で体を押さえつけてあれやこれやするのは、やや倒錯してはいるものの、ヒーローがヒロインを切望する気持ちの表れなので、なかなかスリリングで面白いと思った。ヒロインもそんな彼を愛していて、お互いに首ったけなのに愛されていないと思い込んでいる二人のロマンスが切なくて良かった。美女と野獣もののロマンスでは、ヒーローは屈折してひねくれているものだけど、このヒーローは支配的な行為にヒロインへの深い思いが込められているのが伝わってきて、作者はSっぽい魅力をうまく書いているなと思う。

 ちょっと癖のある作風で最初は読み難く感じたけど、全体的には面白かった。でも続きが翻訳されるかは微妙なところだと思う。この作者のユーモアに波長が合えば面白いだろうけど、万人受けする作家ではないような気もする。 

密やかな愛へのいざない (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

密やかな愛へのいざない (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

  • 作者: セレステ・ブラッドリー,久賀美緒
  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 2019/01/21
  • メディア: 文庫
When She Said I Do

When She Said I Do

  • 作者: Celeste Bradley
  • 出版社/メーカー: Griffin
  • 発売日: 2013/01/29
  • メディア: ペーパーバック

 

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