ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

ミスター E L ジェイムズ

 E L ジェイムズの待望の新作。ヒーローが伯爵だからヒストリカルかと勝手に思っていたけど現代のお話でした。フィフティ・シェイズが大ベストセラーになって映画化までされた後に書くのは、作者にとってもかなりのプレッシャーだったと思うけど、ついにオリジナルの新作を書いたのね。フィフティ3部作の後に、同じ話をヒーロー側の視点で語った“GREY”が出たときは、ネタを使いまわしてまた3作書くのか?!と流石に呆れて読む気がしなかったけど、翻訳が1作しか出ていないところを見ると、あれはやはり不評だったのかな。

 今作は完全なオリジナルだから作風も少しは変わってるかと思ったけど、SM要素がないだけで、基本的にはフィフティ・シェイズと同じだった。フィフティ~は元々トワイライトのファンフィクションで、文章の書き方にもアマチュアっぽさが感じられたけど、ミスターもその点ではあまり変わってない。でもそれが悪いわけではなく、むしろそんなヘタウマなところがこの作者の個性だと思う。文学としてクオリティが低めなのは確かだけど、原書があそこまで酷評されてるのは気の毒だわ。まあ売れる作品って叩かれるものだけど。

 ストーリーはと言うと、ヒーローは伯爵家の次男で、お気楽な生活を送っていたけど、兄が急に亡くなり伯爵位を継ぐことになる。初めのうちは、いかにも金持ちのろくでなしという感じで、それを裏付けるように女性をたらしこむエピソードが仔細に書かれており、女好きな面が強調されて印象が悪かったけど、ヒロインに出会ったことで変わっていく。この作品はヒーローとヒロイン両方の視点で書かれているから心境の変化が明白で、遊び人から脱却して一途な優しい恋人になっていく過程がよくわかる。最初の印象が悪いだけに、その後の改心がよりドラマティックに感じられると思う。ヒロインはアルバニアからイギリスにやって来て掃除婦として働いている。イギリスにやって来た経緯には驚嘆するけどネタバレになるので割愛。東欧出身の外国人というキャラクターが興味深く、不幸な境遇にもめげず必死で生きているところが共感を呼ぶ、魅力的なヒロインだった。

 リッチな伯爵と極貧の掃除婦という身分違いの恋で、イギリスはアメリカ以上に格差社会だから、本当ならかなりの障害だと思うけど、そこはあまり問題じゃないみたいで、普通に恋に悩むカップルのロマンスという感じだった。ヒロインを甘やかしてなんでも与えたがるヒーローと、それに抵抗するヒロインという構図はフィフティ・シェイズと同じ。とにかくお互いにメロメロで、イチャイチャしている甘々な二人の描写がかなりの割合を占めており、“彼女が欲しくてたまらない!”ヒーローと、“素敵な彼に身も心も捧げたい!”ヒロインの胸の内がしつこいくらいに書かれているから、ロマンスにどっぷり浸るには良いと思う。(こういう行間を読む余地もない詳細な心理描写が最近の流行りよね。読みやすいのは認めるけど、そういうのがウケる風潮が、最近話題になってる若者の読解力の低下を物語っているんじゃないかと思ったりして。)

 読んでいてなんとなく、作者はこの作品も映画化を視野に入れて書いてるんじゃないかと感じた。(実際に映画化されるかは微妙だと思うけど。)ヒロインはピアノの名手で、作曲家のヒーローはその才能に惚れ込んでいるけど、ピアノを弾く場面なんかはヴィジュアル化するのにうってつけだし、ヒーローはクラシック好きなだけでなく、クラブでDJもやっているという設定で、流行りのpops系の曲名が作中たくさん出てくるから、サウンドトラックもバッチリって感じ。(そういえばフィフティ~の映画もサントラが無駄に豪華なラインナップだった。)ヒーローのコーンウォールの領地で海を見たり、クレイ射撃をしたりするエピソードも映像映えしそうだし、終盤のヒロインの祖国の情景も絵になると思う。全編通してわりと映像が浮かんでくるようなエピソードが多く、そういうところはなかなか上手いと思った。

 ヒロインの過酷な状況のわりに、終盤のサスペンスが少し生ぬるい気がしたけど、最後まで楽しめる作品だった。ヒロインの設定の独特さがストーリーの面白さに貢献していたと思う。最後は一応決着がついてハッピーエンドだったけど、終わり方が少し唐突だったような。続きが出る可能性はあるのかな?ヒーローの友人が主役のスピンオフとか書いたら面白そうだけど。

The Mister

The Mister

  • 作者:E L James
  • 出版社/メーカー: Arrow
  • 発売日: 2019/04/16

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