ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

美しき囮 トニー・ストロング

 ロマンス小説ではないけれど、「愛と恐怖が交錯するロマンティック・クライム・サスペンス」とのことで、2004年発売の古い作品だけど面白かったのでご紹介。倒錯的な愛を描いていて、刺激的なサスペンスを求めている方にお勧め。

 そもそもこの作品を知ったのは、サイコ・スリラーで原書がベストセラーになっている、JP・ディレイニーの「冷たい家」が面白そうだから読みたいなと思ったのがきっかけで、作者についてちょっと調べてみたところ、昔はトニー・ストロングというペンネームで書いていたそうで、角川文庫から翻訳が1冊だけ出ているのを発見。あらすじを見ると、売れない女優で探偵事務所の囮捜査のバイトをしているヒロインが、警察の要請で、妻殺しを疑われているSM趣味の男に近づくうちに、彼の危ない魅力に惹かれていくというストーリーで、興味をひかれたので入手して読んでみたら、これが大当たり。そんなに売れなかったみたいだけど、隠れた良作だと思う。

 ヒーロー(アンチ・ヒーロー?)がSMに傾倒しているので、かなりディープなラブシーンもあり、最初はそういうSM要素を売りにした扇情的なだけのサスペンスかと思っていたけど、読み進むと思いがけない展開が待っていて、二転三転するストーリーに驚かされた。このどんでん返しは予想外だったわ。なかなか捻りが効いてたわね。この作品を書いていた頃はまだそこまで有名じゃなかったみたいだけど、後にベストセラー作家になるだけあって上手い。ボードレールの詩をモチーフにしたストーリーで、小説に古典が引用されていてもピンとこないこともあるけど、この作品にはボードレールの倒錯した内容の詩がピッタリはまっていて作者のセンスに舌を巻いた。途中までは、ニッキ・フレンチの「優しく殺して」の二番煎じみたいでたいしたことないなと思っていたけど、良い意味で期待を裏切られた。これはN・フレンチより面白いんじゃないかしら。埋もれさせておくのは惜しい作品だわ。

 実際、作者もこの作品を埋もれたままにしておくのはもったいないと思ったのか、これを改稿し“Believe Me”に改題してJP・ディレイニー名義で2018年に刊行している。基本的なプロットは同じだけど、かなり改稿したみたいだから、より面白くなってるんじゃないかな。ヒーローの名前は、今作では“クリスチャン”だったけど、“パトリック”に変えたみたい。SMプレイが好きなクリスチャンじゃあ、フィフティ・シェイズのパクリみたいに思われちゃうもんね。

 ちなみに、あとがきを精神科医香山リカが書いていて、ストーリーの考察が鋭いと思った。翻訳者のあとがきは、割とどうでもいい内容しか書いてないことが多いけど、作家が書くと違うわね。

(追記)

この作者には、女性向けの恋愛小説を書いている、アンソニー・カペラというまた別のペンネームもあり、ヴィレッジブックスから「ドルチェには恋を添えて」が出ている。

そして、ジョナサン・ホルトというペンネームでもミステリーを書いていて、ハヤカワが、「カルニヴィア」3部作を出している。ペンネーム多すぎだろ・・・。多才な作家だということはわかったけど。

The Decoy

The Decoy

  • 作者:Strong, Tony
  • 発売日: 2002/11/26
  • メディア: ペーパーバック
Believe Me: A Novel (English Edition)

Believe Me: A Novel (English Edition)

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