ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

冷たい家 JP・ディレイニー

 ロマンス小説ではありませんが、珍しいタイプのサスペンスで、面白かったので感想を。基本的にはサイコ・スリラーだけど、同じ男性に恋した、似ているようで異なる2人の女性の人生について考えさせられ、Women's Fiction みたいな趣もある不思議な作品だった。女性の心理についての洞察がかなり鋭くて、これを男性の作家が書いたことに驚く。この作者は別名義で恋愛ものも書いてるから、女性の行動原理に精通してそう。器用な作家だと思うわ。

 超ミニマリストで完璧主義のエドワードは著名な建築家で、自らが所有する物件に厳しい条件をつけ、それを満たす者だけに貸し出している。その家は過去に女性が事故死しているいわくつきの物件で、彼はなぜか、不幸な経験をした同じような容姿の女性に家を貸し、彼女らと関係を持っている。3年前にその家に住んでいたエマと現在住んでいるジェーンのエピソードが交互に書かれ、最後に事故の真相が明らかになる。ミステリーとしてはそこまでの意外性はなく、真犯人も想定内の人物で、あまり驚きはなかったけど、(サスペンスの観点から見ると、この作者が別名義で書いた美しき囮のほうが捻りがあって面白いと思った。)そこに至るまでのエピソードが非常に興味深くて引き込まれる。行き過ぎた完璧主義で支配的なエドワードを怖いと思いながらも惹かれるエマとジェーン。登場人物が皆ちょっと病んでいて、そういう人たちの心の闇をうまく捉えてサスペンスに仕上げていると思う。

  この作品は、本国ではフィフティ・シェイズ風味のゴーン・ガールみたいに言われているけれど、ゴーン・ガールの皮肉な結末に比べると、こちらのほうが救いがあるし、どちらも斬新なサスペンスで面白いけど、ストーリーの系統も違うので両方読んで損はないと思う。まあヒーローには、フィフティ・シェイズのクリスチャン・グレイっぽいところがある気はしたな。家がテーマのサスペンスは、B・A・パリスの「完璧な家」も読んだけど、こちらのほうが面白かった。 

冷たい家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

冷たい家 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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