ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

忘れ得ぬ恋の誓いに コートニー・ミラン

 コートニー・ミランは、主人公が苦労人でやや暗めの雰囲気の作品が多いけれど、割と好きなので既刊はだいたい読んでいる。今作は最新シリーズ“The Worth Saga”の1作目。個人的には、お気楽すぎるヒストリカルはあまり読む気がしないので、これくらいが軽すぎず丁度いい。以下ネタバレ注意。

 この作品も、あらすじを見た時はよくある再会もののロマンスかと思ったけど、読んでみると、あらすじだけではわからない奥深さのあるストーリーだった。ヒロインは伯爵令嬢だけど、父と兄が英国の情報を敵国に渡した罪で告発され、父は自殺、兄は流刑になり、財産を没収されて困窮しながらも幼い弟妹の面倒を見ている。逆境に負けずに頑張る行動力のあるヒロインが良い。ヒーローは、ヒロインの兄の親友で、彼女のことを愛し結婚したいと思っていたけれど、裁判で彼女の兄の有罪を裏付ける証言をしたことから、2人は疎遠になってしまう。ヒロインの父と兄がしたことは確かに犯罪だけど、中国にアヘンを輸出しようとする英国政府の卑怯なやり方が許せず、アヘン戦争の際に英国が不利になるような行動に出たのは信念あってのことだから、単純に善悪で語れる問題ではなく、色々考えさせられるストーリーだったのは流石だと思う。ヒーローは子供の頃に夜驚症で母親にアヘンチンキを飲まされていたために中毒になってしまい、寄宿学校で夜アヘンを飲みすぎて死にそうになったこともあり、親友が苦しんでいるのを見たからこそ、ヒロインの兄もアヘンを憎むようになったわけで、そんな彼を告発してしまったヒーローは当然大きな罪悪感を抱えて苦しんでいる。ロマンス小説の主人公はたいてい色んな葛藤を抱えているものだけど、この作者はそういう苦しみを深く掘り下げているから心に訴えるものがあると思う。一筋縄ではいかないロマンスが面白い。

 この作者は割と複雑なキャラクターを好んで書いている気がする。ヒーローの書き方も、ハンサムで颯爽としたところを強調するのではなく、内面的な描写に力を入れていて、少し癖のある個性的なキャラクターが良いと思う。でも時々癖が強すぎることがあるから、作品によって好き嫌いが分かれるんじゃないかな。今作でも、ヒーローとヒロインが下町訛りの白鳥になりきって会話をしたりするところなんかは、ユーモアがちょっと独特すぎる気がした。このヒーローもわかりやすいタイプではなく、とらえどころのないキャラクターだったけど、罪悪感に苦しみながらもヒロインを愛し続けているところが素敵で、カッコ良さよりも優しさが魅力だった。この作者はそういうタイプのヒーローが多い気がするな。

 文庫で380ページという比較的短めのストーリーにしては中身の濃い内容でとても良かった。主人公2人の関係に焦点を絞り、ヒロインの父や兄については最小限の説明に留めているから、この長さに収まったんだろうと思う。最後の仲直りがやけにあっさりしていて少し物足りない気がしたけど、エピローグに行方不明だった妹が現れて爆弾発言したおかげで吹き飛んでしまったよ。次作が気になるなあ・・。

Once upon a Marquess (Worth Saga)

Once upon a Marquess (Worth Saga)

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