ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ロマンス小説、翻訳ミステリーのブックレビュー

その手を離すのは、私 クレア・マッキントッシュ

 イギリス人女流作家のミステリー。デビュー作なのになかなかのクオリティでおススメの作品。轢き逃げというミステリーで扱う題材としてはかなり地味な事件がテーマになっていて、最初のうちはあまり捜査に進展もなく、事件を担当する警部補の日常が描写されており、これは本当にミステリーなのかな?と思いながら読んでいた。この作者は元警察官だそうで、この警部補のキャラクターが実にリアルで、仕事熱心なあまり家庭をないがしろにしてしまい、奥さんとの仲はギクシャクするわ、息子は非行に走るわで、家にいるよりも職場のほうがくつろげるような状態で、部下の若い美人刑事に魅力を感じてしまい、奥さんに対して罪悪感を抱いていたりする。少しくたびれた中年男性で、良い人だけど色々問題を抱えた等身大の警察官というキャラクターが興味深かったけれど、事件のほうは全く手掛かりがつかめずお蔵入りしそうになっていて不可解だった。

 しかし第2部に入ると予想外の展開が待っていて、えぇ?どういうこと??と驚かされる。いわゆる叙述トリックというものに騙されていたことに気付き、ミステリーらしくなって、ヒロインに俄然興味が湧いてくる。これから読む方のネタバレになるといけないので詳しいことは書けないけれど、この展開の仕方は上手いと思った。単なる轢き逃げと思っていた事件の裏には深刻な状況があって、ヒロインに同情せずにいられない。彼女が優しい獣医の男性と出会えて良かった。

 DVを扱ったサスペンスはよくあるけど、これはかなり恐ろしく、DV男の視点で書かれた部分を読むと、その狂った思想にゾッとする。終盤にかけて緊張感が増していき怒涛の展開になるサスペンスに、女流作家らしい繊細さで感情に訴えかけるストーリーが素晴らしい秀作だと思う。

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