ロマンス小説感想日記

翻訳ミステリー&ロマンス小説感想日記

海外ミステリーとロマンス小説のブックレビュー

そして彼女は消えた リサ・ジュエル

 ここ数年、ポーラ・ホーキンズに続けとばかりに、イギリスの新人女性ミステリー作家が出てきてヒットを飛ばしているという印象がある。少し前に読んだクレア・マッキントッシュアリス・フィーニーも面白かった。リサ・ジュエルもそういうイギリス人作家の一人でかなり人気があるみたいだから、そのうちどこかの出版社が翻訳を出すんじゃないかと思っていたけど、二見書房が出すとは意外だった。二見のラインナップは北米の作家がほとんどだから、イギリス人作家のミステリーを出すなんて珍しいな。

 この作品も地味ながら独特の雰囲気があるミステリーで面白かった。ヒロインは3人の子供の母親で、一番可愛がっていた末娘が15歳の時に失踪し、その事件のせいで家庭は崩壊し夫とも別れてしまった。事件から10年ほどたって、素敵な男性と出会い付き合い始めたけれど、その男性には9歳の娘がいて、その子がどういうわけか失踪したヒロインの娘に生き写しで・・・というストーリー。派手なアクションやすごいトリックはないけど、動揺し疑惑に苦しむヒロインの心理がリアルに描写されていて、いつの間にかストーリーに釘付けになっていた。付き合っている男性に、失踪した自分の娘にそっくりな女の子がいるというのは何とも気持ち悪い話だけど、その気味悪さがクセになる一風変わったイヤミスで、ヒロインの陥った異様な状況には好奇心を掻き立てるものがある。この作者は元々は女性向けのフィクションを書いていて、後からミステリーに転向したせいか、この作品もミステリーというだけでなく、娘の失踪によって壊れてしまった家族のほろ苦くて切ないドラマでもあり、いなくなった末娘を案じるあまり家族を遠ざけてしまったヒロインの孤独な人生や、心が離れてしまった家族のことを思うとやるせない気持ちになる。フーダニットを重視したミステリーではないので衝撃のどんでん返しみたいなのを期待すると肩透かしだけど、ストーリー自体が“奇妙”で独特の面白さがある作品だと思う。(あとがきで作者自身がこの作品を言い表すのに“奇妙”という言葉を使っていて、気になって調べてみたら英語ではbizarreと言っているらしく、なるほどと思った。)

 注目のミステリー作家を出してくれて有難いのだけれど、二見はロマサスのイメージが強いから、こういうのは他の出版社に任せて、ロマンス小説に専念してくれたほうが嬉しいかも。ミステリーの話題作はだいたい早川や東京創元あたりがカバーしてくれていると思うので、ジャンルで棲み分けたほうが良い気がするんだけど。今はただでさえロマンスの刊行が少なくなっているのに、これ以上減ったら寂しい・・。

Then She Was Gone: A Novel (English Edition)

Then She Was Gone: A Novel

  • 作者:Jewell, Lisa