フィギュアスケーターのロマンス。この作者はスポーツをテーマにしたロマンスで定評のある作家だそうで、この作品も恐らくフィギュアに関してかなりリサーチしたのだと思う。選手の実態や競技に関しても(フィクションなので多少話が出来すぎな部分はあるにしろ)割ときちんと書かれたスポ根もので面白かった。
ヒロインは子供のころからスケートに打ち込んできたけれど26歳の今まで大した成果も上げられず、ペアのパートナーに見捨てられて競技を続ける見通しも立てられずにいる。するとメダルをいくつも獲得しているスター選手のヒーローからペアを組まないかと提案される。子供の頃から知り合いの彼とはお互い嫌い合っていて犬猿の仲なので躊躇したけれど、これが競技を続ける最後のチャンスだと思いパートナーになることに。ヒロインの視点で書かれていて、すべてを犠牲にしてスケートに全力を注いできたのに結果を出せない葛藤や、父親が自分を認めてくれないことへの苦悩がリアルだった。可愛らしいタイプではなく、強気な性格で愛想を振りまいたりしないところとか、こういう人実際にいそうだなと思わせるものがあり、キャラクターに説得力がある。
ロマンスは、喧嘩ばかりしていた二人が相手のことを知るにつれ惹かれあうようになって恋に落ちるという定石どおりの展開で、意外性はあまりないけれど、少しずつ相手に信頼を寄せるようになり、まず親友になってそれから恋人になる過程が丁寧に書かれていて良かったと思う。嫌味を言ってばかりのヒーローが本当は優しくて良い人で、ヒロインを大切に思っているのが素敵。英語のタイトルは内容をよく表してると思う。スポーツものだから甘いラブストーリーではないけれど、ゆっくり進行していくロマンスだからこそ、遂に二人が結ばれた時はとてもロマンティックに感じられた。
作中で言及されていた映画の「冬の恋人たち」は昔見て面白かったから覚えている。90年代の古い映画だから若い人は知らないかも。当時ビデオをレンタルして見た覚えがあるけど、アイスホッケーの選手がフィギュアスケートに転向して、フィギュア界の有名選手の女の子とペアを組むことになり、最初はいがみ合ってたけど、毎日一緒に練習するうちに恋が芽生えるという話で、この小説と似たようなストーリーだったと思う。(他にも「飛べないアヒル」とか「グレムリン」も話に出てきて懐かしすぎ。)
本格的にスポーツを題材にしたロマンス小説ってあまりないから新鮮だった。青春映画のような爽やかなストーリーで、この時期にピッタリの作品だと思う。
- 作者:マリアナ・ザパタ
- 発売日: 2020/12/02
- メディア: 文庫