ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

完全記憶探偵 デイヴィッド・バルダッチ

 近頃ミステリーは女性作家のサイコスリラーばかり読んでいて、こういう男性作家の書いたハードボイルドな警察小説はあまり読まなくなっていたけれど、kindle unlimitedにD・バルダッチがあったので読んでみた。この作者はキャリアも長く結構有名なので名前は知っていたけど読んだことがなかったのよね。今回初めて読んだら予想以上に面白かった。これは竹書房文庫だけど、ここの出版社はロマンスもミステリーもたくさん読み放題に入っていて有難いわ。

 主人公のデッカーは元フットボール選手で、試合中にタックルを受けて死にそうになり、その際に体だけでなく脳もダメージを受けて構造が変化し、何でもかんでも記憶して決して忘れない超記憶症候群になったらしい。何だか凄すぎる設定だけど、フィクションなので誇張されているにしろ一応医学的な根拠はある話みたい。怪我で選手生命を絶たれたデッカーは警官になったけれど、妻子を何者かに殺されて、絶望して仕事も辞め、激太りして体重150キロの肥満体(!)になり、ホームレスになって段ボールで寝起きするほど落ちぶれたけれど、多少立ち直って今は私立探偵をしているという。超記憶症候群もすごいけど、190センチ150キロの巨漢というのもミステリーのヒーローとしては異色だわ。でも元フットボール選手だから太っていても運動神経は良く、犯人を走って追いかけていたりするので、よく言う"動けるデブ"というやつかな。

 肥満体のくたびれたオジサンヒーローと聞くとちょっと萎えるかもしれないけど、読んでいるうちにストーリーに引き込まれ、記憶力を武器に犯人捜しに奔走するデッカーが意外とカッコ良く思えてくる。高校に何者かが侵入し何人もの生徒が銃で撃ち殺されるという事件だけど、複雑な要素が絡んでいて犯人捜しも一筋縄ではいかず、次から次へ興味深い事実がどんどん出てきて面白かった。ベストセラー作家だけあって、難解な事件を読みやすく書いていて、上下2巻の長編なのに中弛みもなく、読者にどんどんページをめくらせるテンポの良い展開が流石だと思った。

 

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 最後に、海外のミステリー小説全般についての話ですが、このジャンルは昔は男性作家が圧倒的に優位だったけれど、「ゴーン・ガール」以降の"ガール"ミステリーのブームで今では女性作家のほうが人気のあるジャンルとなり、最近は男性作家がわざと女性っぽいペンネームを使ってガール・ミステリーを書くほどだと、ある記事で読んだ。ミステリー界で女性作家による下剋上(?)が起きているとは興味深いわね。言われてみれば、J・P・ディレイニーもA・J・フィンも男性作家だけど、性別のはっきりしないペンネームで女性が書きそうな内容のミステリーを書いてベストセラーになっていたし、ハードボイルドよりも女性が主人公のサイコスリラーが売れる時代なのね。自分もガール・ミステリーばかり読んでいるクチなので、これからも女性の作家が頑張ってくれると嬉しいな。

 

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