ロマンス小説感想日記

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romance & mystery book review

悪意の森 タナ・フレンチ

 Dublin Murder Squadシリーズ1作目。多くの賞を獲っていて評価の高いアイルランドのミステリー作家のデビュー作。かなり独特で好みの分かれる作風だと思う。主人公の男性刑事がヘタレで、ミステリーのヒーローがこれほど情けないキャラなのはある意味画期的。それでも暗い過去を抱えている彼のことをなぜか嫌いになれなかった。

 主人公には子供の頃、森で遊んでいた時に友達2人が行方不明となり自分だけが助かったけれど、その時の記憶を失ってしまったという過去がある。そして大人になって刑事になり、少女が殺害されて捨てられた事件を担当しているうちに、過去の恐怖がよみがえって心理的に追い詰められていく。事件そのものよりも人物描写に比重が置かれていて、とにかく主人公のモノローグが多く、捜査がなかなか進まない。スピード感のあるミステリーを好む人には受けつけられない作風だと思うけど、精神的に脆い主人公の心理を緻密に描いていて、これはこれで面白いと思った。相棒の女性刑事がしっかり者で、壊れそうな彼のことを支えている。この2人は固い信頼関係で結ばれていて、友達として付き合っていても、そこには友情以上の感情があり、彼のモノローグに彼女を好きな気持ちが垣間見られるのが素敵だったけれど、彼の言動が彼女を傷つけ、かけがえのない関係を壊してしまったのがとても切なかった。あからさまではないほのかなロマンスだけど心に響くものがあった。最終的に事件は一応終結するものの、すっきり一件落着とはいかず、もの悲しく余韻の残る結末だった。

 普通の犯罪捜査ものとは一味違うミステリーで、不条理なところもこの作者らしく、独特の趣がある印象的な作品だと思う。 

悪意の森 (上)(集英社文庫)

悪意の森 (上)(集英社文庫)

悪意の森 (下) (悪意の森) (集英社文庫)

悪意の森 (下)(集英社文庫)

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