仕事で成功し暮らしぶりも良く、子供の教育にも熱心な一見普通の夫婦が実は殺人鬼で・・・というお話。「ゴーン・ガール」もなかなかのイヤミスだったけど、この夫婦はその上を行くタチの悪さで、恐ろしい殺人計画を平然と実行する顛末を書いているイヤすぎるミステリー。アメリカ人はこういうの好きそうだけど、あまりにもブラックなユーモアにちょっと引く。
原書の宣伝文句に”Dexter meets Mr. and Mrs. Smith" というのがあって、確かにそんな感じだけど、このサイコパスの夫婦はそこまで魅力のあるキャラクターではなかったな。最初から最後まで夫の視点で書かれていて、感情の起伏が少ない淡々とした語り口で、序盤はやや単調に感じられたけど、事態がこじれて彼が追い詰められていくにつれ盛り上がり、終盤はどうなることかとハラハラさせられた。子供達の世話をして、ごく普通の日常生活を送りながら、夜な夜な殺人の計画を練っているというのが何だかちぐはぐで、怖いんだけど笑える。おぞましい夫婦のブラックすぎるストーリーだけど、サスペンスとしては良く出来ていると思う。殺人鬼同士のカップルが仲間割れすると、とんでもないことになるのね。そして締め方が上手い。思わせぶりな最後の一文にギョッとさせられたわ。あのエピローグは秀逸だった。
サイコスリラーは好きで結構読んでいるけど、これは自分の好みとは少し違うかな。先日読んだサラ・ピンバラの「瞳の奥に」のほうが面白かった。今月のミステリーの新刊ではもうすぐ発売されるグリア・ヘンドリックスに一番期待していて、読むのを楽しみにしている。あとは、女性が主人公のサイコスリラーを多く書いてるRiley Sagerという男性作家が最近かなり人気があって面白そうなんだけど翻訳が出ていないので、どこかの出版社が出してくれないかなあ。
- 作者:サマンサ ダウニング
- 発売日: 2021/03/17
- メディア: 文庫