何年か前に、L・ディカプリオ主演の映画「シャッター アイランド」を見て、この原作者は凄い作家に違いないと思いデニス・ルヘインに興味を持ったのだけど、結局その時は小説は読まずじまいだった。シャッター アイランドの後はギャングものを何作か書いていたみたいだけど、この最新作は(発売は3年近く前だけど・・)流行に乗ってか、この作者にしては珍しく女性が主人公のサスペンスなので読んでみることに。
ヒロインがいきなり夫を撃ち殺す場面から始まって驚いたけど、三部構成の第一部は父親を知らず、支配的な母親に育てられた彼女の人生が綴られている。ジャーナリストを目指し新聞記者からテレビのレポーターになり成功を収めたけれど、ハイチの大地震の取材で現地に赴いた際の過酷な経験からパニック発作を起こすようになって仕事を失い、夫にも見捨てられ離婚する。そんな波乱万丈な半生を通して自らの内面を見つめ、自分の人生から消えていった人たちを思い喪失感に苛まれる彼女の切ない思いに胸を打たれた。男性の作家なのに女性の気持ちをこんなに繊細に書けることに驚いた。第二部でヒロインが自分を理解し心から愛してくれる男性を見つけ結婚するエピソードはロマンティックな恋愛小説のようで、彼女がパニック発作を克服できるよう励ます優しい夫が素敵だったけれど、そこから予想外の展開になり怒涛のサスペンスに突入する。
色んな要素が詰まっていて面白かったけど、途中から話の流れが変わってサスペンスになるから2つの別の小説をくっつけたみたいで、なんとなく座りが悪いような気はした。それに、訳者さんはあとがきで「余韻の残る結末」と言っているけど、そこで終わり?!と言いたくなるラストは、作者がオチをつけかねて途中で放置してしまったように感じられた。もうちょっと先まで書いてほしかったなあ。
それでも入念に作りこまれたキャラクターが見事で、ヒロインに感情移入しながら結構夢中で読んだ。先の読めないストーリーで終盤はドキドキだったし、ヒロインの人生の物語は心に響くものがあった。孤独な少女時代を送った不幸な女性だけど、憐みを誘うような感じではなく冷静に自己分析していて、その鋭さが流石だと思った。心の底ではずっと一緒にいてくれる誰かを求めながらも、人と親しくなることを恐れている彼女に心が痛くなった。昔からのファンには不評らしいけど、私はギャングものよりこういうテーマのサスペンスのほうが好きなので良かった。