ケイシー・マクイストンが売れたから、似たようなのを出したのかしら。LGBTのロマンスが日本で普通に刊行されるようになったのは良いことだと思う。欧米でベストセラーになってる作品が、ゲイやレズビアンの話だから翻訳されないというのでは悲しいもんね。これもGoodreadsをはじめ、色んなところで2020年のBest Romanceのランキングに入っていた人気作。
アレクシス・ホールはイギリスの作家で、この作品はすごくイギリスっぽいジョークが満載のラブコメなので、イギリスのポップカルチャーに興味のある人ならかなり楽しめると思う。でもイギリスの文化や世相に関する会話がポンポン交わされるので、ついていくのが大変と思う人もいるかもしれない。まあ翻訳小説の読者は外国の文化に詳しい人が多いだろうから心配することはないかもしれないけど。(私は作中でジョークのネタになってる曲名はほとんど知ってるくらいの洋楽オタクで、外国かぶれの変人なので無問題。何度か名前が出てきた「ブルー」のサイモンとか懐かしいなあ。ブルーはアイドル系の4人組のボーイズ・グループで昔好きだったのでCD全部持ってるわ。)英語のダジャレを解説するのにいちいち括弧書きの注釈が入ってて、訳者さんも苦労したんだろうね。
ストーリーはと言うと・・主人公のルークは慈善団体で働いているゲイの男性だけど、両親がそこそこ有名なミュージシャンだからパパラッチの標的にされていて、スキャンダラスな写真を撮られたせいで職場をクビになりかけている。そこできちんとした男性と真面目な付き合いをしているところを見せつけてイメージアップを図ることに。友人に紹介されたお堅い弁護士のオリヴァーならボーイフレンドにピッタリということで、交際中のふりをしてくれるよう彼に頼むことに。ルークがオリヴァーに恋して悩む様子がまさにロマンス小説のヒロイン(?)みたいで可愛かった。彼の友人達も濃いキャラクターばかりでとても面白い。特に出版社勤めの女性が、いつも担当している作品に問題ばかり起きて嘆いているのがすごく笑えた。フィリップ・K・ディックの話とか噴き出してしまったよ。この作者は会話が本当に楽しいなあ。弁護士のオリヴァーは真面目で堅苦しいけど優しくて良い人で「高慢と偏見」のMr.ダーシーみたいなタイプ。やはりMr.ダーシーってイギリス人の理想のヒーローなのかなと思った。女性だけでなくゲイの男性にとっても。
780ページもあるかなりの長編で、イギリスのカルチャーに関する雑談みたいな会話が結構な割合を占めているから、そういうのに興味のない人は少し長く感じるかもしれない。それでも恋愛だけでなく親子関係や社会的な格差についても色々考えさせられるものがあり、楽しいラブコメというだけではなく内容のしっかりした作品なので読む価値はあると思う。後半2人の関係が深まりロマンスが佳境に入ってくると、気づけばルークとオリヴァーに感情移入していた。2人とも繊細で傷つきやすいところがあって可愛いのよね。いろんないざこざが起きて目が離せない展開がとても面白かった。男性同士のカップルだとあまり意識することなく読めて、恋に悩む主人公に共感できる素敵なロマンスだと思う。
LGBTQのロマンスもだいぶ一般的になってきたけど、↓これは今イギリスで大人気のゲイのロマンスを描いたコミックだそうで、Netflixでドラマ化されるので日本語版も刊行されている。こういうマンガの日本語版が出るなんて珍しいよね。中高生向けだから爽やか系の青春ものだと思うけど、話題作らしいので興味のある方はどうぞ。