ロマンス小説感想日記

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海外ロマンス小説、翻訳ミステリーのブックレビュー

紅いオレンジ ハリエット・タイス

 イギリスの作家のデビュー作。「戦慄のリーガルスリラー」という宣伝文句とは少し違い、主人公は弁護士だけど法廷サスペンスがメインではなく、どちらかというと最近流行りの女性が主人公のドメスティック・スリラーのような感じで、好みが分かれる内容かもしれないけれど私は面白く読んだ。初っ端から何だかよくわからない窒息プレイ(?)の場面が描かれていて何事かと思ったけど、意味深なプロローグで読者を謎に引き込む構成が上手いと思った。それにしてもオレンジをそんな用途に使うのかと変なところに感心してしまったわ。

 ヒロインは弁護士で心理療法士の夫との間に幼い娘がいるけれど、仕事第一で良い妻とは言えないし、娘を愛してはいるけど母親としての務めを十分果たせずにいる。酒癖が悪くて夫に愛想をつかされているし、仕事関係者の男性との不倫に溺れ、彼と荒っぽい行為に耽っていて、最初のうちはこんなビッチが主人公なのかと呆れていたけど、読み進むうちに印象が変わっていった。少なくとも娘への愛情は本物だし、仕事に真摯に取り組む姿勢も立派で、欠点はあるけどそこまで悪い人間ではないなと。夫との仲はこじれ、浮気相手にも問題が起き、自業自得とは言え彼女の陥った状況があまりにも泥沼すぎて気の毒になり最後には応援したくなった。

 ヒロインが担当しているのはDV絡みの殺人事件で、イギリスの裁判制度はアメリカと少し違うところがあって勉強になった。(弁護士ものの小説はアメリカの作家しか読んだことがなかったので。)ありがちな事件だけど、経緯が明らかになっていくのが興味深かったし、同時進行でヒロインの私生活が修羅場化していき次々と問題が起きるのでハラハラさせられた。

 作中、「きみは乱暴に扱われるのが好きだろう」と言うのが殺し文句の浮気相手について、ヒロインが「いわば私がフィフティ・シェイズの意気地のない主人公アナスタシアで、彼がちょっとレベルの落ちるクリスチャン・グレイだった」と自嘲している場面があり、言い得て妙だと思った。SM趣味の男性が愛する女性と幸せになれるのはフィフティ・シェイズの中だけで、たいていは碌なことにならないわよね。好感の持てない登場人物が多いし、結末もちょっと後味悪いけど、なかなか面白いサスペンスだった。

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