シリーズ6作目はレイヴネル家の双子の片割れ カサンドラと鉄道会社経営者 トム・セヴェリンのロマンス。
トムはシリーズのこれまでの作品ではどちらかというと悪役っぽかったけど、主役になってその生い立ちが明らかになってみるとかなりイイ男だった。成り上がりヒーローが得意な作者なので、貧しい境遇から這い上がって巨万の富を築き、全てを手に入れたのに満足感を得られずにいる孤独な大富豪のキャラクターを素晴らしく魅力的に描いていたと思う。カサンドラは作者比ではやや個性が弱いかなという感じはするけど、愛する男性と結婚して家庭を築きたいと思っている素直な性格の優しい女性で、好感度の高いヒロインだった。超絶美人なのにお菓子の食べ過ぎで贅肉を気にしているところとか、親近感の沸くキャラクターが良かった。
お金持ちの平民ヒーローと貴族の令嬢ヒロインの、ヒストリカル・ロマンスとしては割とオーソドックスなストーリーだけど、人気作家だけあって細かいところが良く出来ていて上手い。ちょっとしたセリフにもユーモアとセンスが感じられて流石。「ぼくがきみの牡蠣になろう」とか「愛とは油まみれのブタだ」とか言い得て妙だし、小説好きなヒロインと小説をバカにしているヒーローの読書談義がとても面白かった。天才肌のヒーローが無限大記号の概念を二人の結婚になぞらえるのも洒落ていて素敵だと思った。
社交シーズン中、ヒロインはスキャンダルに巻き込まれてしまうのだけど、そのスキャンダルもなかなか手が込んでいて面白く(悪知恵の働く好色爺に目をつけられたヒロインは気の毒だけど)、颯爽と現れて彼女を救うヒーローがカッコ良かった。色んな感情に煩わせられるのが嫌で自分には5つの感情しかないと言い張っていたヒーローが、ヒロインと出会って愛を知るのが定番ながらとてもロマンティックで良かったし、この作者らしいホットで甘々なロマンスが楽しく、期待を裏切らない満足の一作だった。内容は文句なく面白かったけど「カサンドラを探して」という邦題がイマイチで、読む前はヒロインが失踪する話なのかと思っていたわ。chaseの訳なら「探す」よりも「追いかける」とか「追い求める」のほうが適切だよね。
レイヴネル家の面子がみんな結婚してしまってもシリーズはまだ続くようで、既に原書が刊行済みの7作目"Devil in Disguise"は、Lady Merritt Sterling(壁の花シリーズのリリアンとマーカスの娘)とスコットランド人のKier MacRaeのロマンスらしい。