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海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

すべての罪は沼地に眠る ステイシー・ウィリンガム

A Flicker in the Dark: A Novel (English Edition)

A Flicker in the Dark: A Novel

  • Willingham, Stacy
  • Minotaur Books

 

 これは面白かった!少女を狙った連続誘拐殺人事件、模倣犯、信頼できない語り手等々、割とよくある題材を用いたミステリーだけど、キャラクターの描き方も良かったし、読者を謎に引き込む手腕はなかなかのもので、2転3転するストーリーにドキドキしながら読んだ。

 主人公のクロエは12歳の時に父親が少女の連続殺人の罪で逮捕され、母親は自殺未遂で麻痺状態となり、兄と2人で必死で生きてきた。それでも何とか立ち直って今では臨床心理医となり優しい婚約者もいる。ところが父親の事件から20年を経て模倣犯らしき者が現れ、また少女たちが誘拐されるようになって・・というストーリー。

 クロエは父親の事件のせいで男性を信じられず、不眠やパニック障害に悩まされて処方薬を乱用していたこともあり、自分のことを”壊れたクロエ”と揶揄している。この作者はそういう精神的に不安定なキャラクターを上手く描いていて、それがストーリーと相まって緊張感を高め、すごくハラハラさせられるのよ。実際かなり壊れたキャラクターだけど、恐怖感がリアルに伝わってきてつい感情移入してしまう。こういう心理サスペンスでは読者が主人公と同化して恐怖を感じられるかが面白さの肝で、この作者はその点ではかなり健闘していると思う。

 終盤の展開はハラハラドキドキの連続でとにかく面白かった。どんでん返しを狙いすぎてちょっと無理やりなところはあるけれど、これだけ読者を楽しませてくれるなら満足だわ。デビュー作にしては完成度が高く、Goodreads Choice Awardのミステリー部門でも上位に入っていたし、これからが楽しみな作家だと思う。

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 作中、兄に「またな、ワニ公」と挨拶されて、クロエが「またね、ワニさん」と言っている場面があって、これは"See you later, alligator” "In a while, crocodile"というアメリカでよく使われるダジャレだけど、あまり捻りのない翻訳よね。以前、このフレーズを「まいどアリゲーター」「また来るクロコダイル」(多分、店員と客の会話だったと思う)と訳していた作品があったのを思い出して、あれはナイスな訳だったなと。(→ジョー・ネスボの「その雪と血を」でした。)

 

Goodreadsに新作についての作者のインタビューが掲載されていました。

Stacy Willingham Drops Some Hints About Her Suspenseful Sophomore Novel

 

 

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