ウィル・トレント 8作目。ウィルの妻アンジーが主役のストーリー。アンジーは前作のレナ・アダムスが可愛く思えるくらいのとんでもない悪女で、前半はこんな恐ろしい女と結婚しているウィルが気の毒だと思いながら読んでいたけど、後半アンジーの視点で事の顛末が語られると、彼女の行動は理由あってのことで、不幸な身の上と相まって同情の余地はあるかなと思った。ひねくれた女性だけど人間らしいところもあるのねと見直したのに、事件を経て改心するのかと思いきや、まだウィルとサラの仲を邪魔し続けるようで、やはりどこまでも性悪女なのね・・・。
バスケットボールのスター選手が関わる事件が興味深く面白かった。大金が動くプロスポーツの世界というのは闇が深いのね。色んな利権の絡む複雑な事件で、アンジーの生い立ちも関係するとても良く練られたストーリー。シリーズ8作目まで来ても勢いが衰えず、さらに上手くなって面白さが増しているというのは凄いと思う。初期作はグロい事件のインパクトで読ませるようなストーリーだったけど、だんだん扱う事件が複雑になっているし、続けて読んでいると作家が進化しているのがわかる。
ところで、脇役に「ング」という名前の刑事が出てきたけど、これは「イング」ではないかしら。NGと書いてイングと読む中国系アメリカ人の苗字があるのよ。ベストセラー作家で翻訳も出ている Celeste NG という人がいて、本国でもNGの読み方がわからない人が多いのか、ウェブサイトでも読み方を説明しているし、facebookやXは、アカウント名が pronounced_ing - Celeste Ng になっているのよね。邦訳が出ている小説も名前の片仮名表記は「セレステ・イング」だし。私は長年翻訳小説を読んでいるけど、人名に関しては割と適当にカタカナにしている翻訳者さんが多いような。