この作家は気に入っているのだけど、新シリーズはジャック・リーチャーのようなアクションものということで、これまでとは作風が違うようなのでどうかなあと思いつつ読んでみた。これはこれで悪くはなかったけど、ワシントン・ポー シリーズほどの面白さは無かったなあ。
主人公のベンは脳の病気のために恐れを感じなくなった元連邦保安官という凄い設定だけど、この手のアクション・スリラーの主人公は概して命知らずで危険を顧みないタイプが多いので、そこまで特別な感じはしなかった。全編主人公の一人称で書かれていて、モノローグが多すぎてややテンポが悪い気がしたかなあ。作者が蘊蓄を披露したいのはわかるけど、銃や刃物や手榴弾についての説明がやたらと長くてスピード感を損ねているような。例えばこれから敵のいる建物に毒ガスを充填した円筒弾を投げようという時に、そのガスについての説明やベンが以前その円筒弾を使った時の体験が語られたりすると、説明はいいから早く投げろよ~と言いたくなるのよね。
ベンのキャラクターがそこまで魅力的だと思えなくて、彼の視点で書かれているのにあまり共感できず、肩入れする気になれなかったのが残念。そもそも恐怖を感じない男の視点で書いたら、あまりハラハラドキドキしないと思うのよ。普通に三人称で書いたほうが良かったんじゃないかしら。ベンの元同僚のジェンは興味深いキャラクターだと思うけど、彼女のことを良く思っていないベンの視点で書かれているから、彼女の魅力があまり伝わってこないし、ワシントン・ポーとティリーのようなバディ感もないし・・。恐怖を感じない設定も残虐性が強調されているだけで今一つという気がしたな。脳の異常系(?)ならデヴィッド・バルダッチが書いた頭の怪我のせいで何でもかんでも記憶して決して忘れない超記憶脳の持ち主になった元フットボール選手が主人公の完全記憶探偵シリーズのほうが面白かったな。あれはミステリーの出来も良かったし。アクションの面で言ったら、グレッグ・ハーウィッツのオーファンXなんかは設定がややマンガっぽいけどアクションの盛り上げ方が上手くてスピード感がありサクサク読めたし主人公が魅力的だった。本作がつまらないわけではないけど、このジャンルならもっと面白い作品があると思う。
文句ばかり書いてしまったけど、太陽光発電の会社の秘密が暴かれる結末には驚かされたし、ストーリーは面白いと思う。その結末に至るまでが長すぎて、自分にとってはこれまでの作品のようなページターナーでは無かったけど、私はこういうアクション系のサスペンスはそれほど多くは読んでいないので、このジャンルが好きな人は意見が違うかもしれないわね。
来月はワシントン・ポー シリーズの新作が出るからそちらに期待するとしよう。(でも次作から上下分冊なのよねぇ~。人気シリーズだから出版社も値段を上げてきたわね。)