この作家が1985年に初めて書いた小説だそうで、出版社に送ることもなく、ずっと引き出しの中で眠っていた原稿を今になって刊行したらしい。こういう"幻の初期作"みたいなのは、全盛期の作品と比べると見劣りすることが多いから、あまり期待せずに読んでみた。
これはこれで悪くはなかったけど、主人公のマティルドが怖すぎる。認知症の殺し屋という設定から、以前見たリーアム・ニーソン主演の映画「メモリー」みたいな話を想像していたけど違った。マティルドはかなりイカレたサイコパスで、良心のかけらもなく邪魔な人間を次々と殺していく。狂暴な婆さんが人を殺しまくるホラーのようなストーリーで、これまでの作品のように主人公に共感することが全く出来なかった。事件を捜査するヴァシリエフ警部がもうちょっと頑張ってくれるのかと思いきや、なんだか中途半端な役どころだったし・・。やはり初めて書いた小説だからか、カミーユ警部のシリーズなんかと比べるとキャラクターに深みが足りないと思うけど、スピード感のある展開は流石で、誰かこの婆さんの暴走を止めて~と思いながらページをめくっていたら、いつの間にか読み終えていた。
登場人物を容赦なく酷い目に遭わせることで有名な作家だけど、この作品では酷いことをしているのが主人公なので、結末も特に感慨深いものはなかった。ノワール小説らしい皮肉なオチだなとは思ったけど。それでもこの原稿を眠らせたままにしておくのは確かにもったいないので、出版されて良かったと思う。