この原書は2023年のミステリーのヒット作で、各所で年間Best Mysteryにノミネートされているのを見て気になっていたので翻訳が出て良かった。読んでみると期待通り面白かった。主人公のヴェラが図々しいアジア系のオバチャンそのもので、殺人事件の被害者の持ち物を勝手に取っていったりするのが笑える。最近よくある老人が主人公のミステリーだけど、「木曜殺人クラブ」みたいに主要な登場人物がほぼお年寄りというのではなく、ヴェラ以外の登場人物は若い人ばかりで、オバチャンパワーに圧倒される若者たちという構図が良かった。殺人ミステリーでも、被害者はいけ好かないペテン師で、容疑者のほうが好感の持てる人たちだというのが珍しい。容疑者たちの間で恋の花が咲いたり(?) するのも楽しかった。
登場人物がほとんどアジア系なので、60代のヴェラが若者たちにあれこれ偉そうに指図して、皆が自然とそれに従うのも、年長者は敬うべきという感覚が染みついているアジア人ならではという感じ。その辺は日本人の感覚に近いものがあると思う。謎解きはそこまで凄い捻りがあるわけではないけれど、意外な人物が犯人だったしエドガー賞を取ったくらいだから出来は悪くないと思う。ヴェラのキャラクターが強烈で、最後まで退屈する暇がなく楽しく読めた。
この作者は殺人ミステリーとラブコメをかけ合わせたような作風の"Dial A for Aunties"(←ブラインドデートの相手をうっかり殺してしまったヒロインを助けるために、母親とおせっかいなおばさんたちが死体を片付けるのに奮闘する話らしい)のシリーズで人気が出たので、この「ミセス・ワン~」もその作風を踏襲していると思う。ミステリー作家というより、アジア系のキャラクターを主人公にしたYA小説やラブコメ等、幅広く書いている東南アジア出身の作家で、ガチのミステリーファンには物足りないかもしれないけど、私は気に入った。

