ロマンス小説感想日記

翻訳ミステリー&ロマンス小説感想日記

海外ミステリーとロマンス小説のブックレビュー

葬送の庭 タナ・フレンチ

葬送の庭 上 (集英社文庫)

葬送の庭 上 (集英社文庫)

  • タナ・フレンチ
  • 集英社
葬送の庭 下 (集英社文庫)

葬送の庭 下 (集英社文庫)

  • タナ・フレンチ
  • 集英社

 

 Dublin Murder Squad 3作目。これは面白かった!このシリーズはミステリーにしては珍しく、作品毎に主役が変わるのだけど、本作の主人公フランクは前作ではあまり良い印象がなかったので、彼の話を特別読みたいとは思わなくて積読のまま放置していたのよね。でも読んでみたらシリーズで一番気に入ったくらい面白かった。前作までと比べて読みやすい文体になっていたし、ストーリーもエモくてとても良かった。1~2作目は、万人受けする作風ではなく読む人を選ぶタイプのミステリーという印象だったけど、この3作目は誰が読んでも面白いんじゃないかな。これまでの内容を知らなくても問題なく単独で読めるのでおススメ。

 フランクにこれほど悲しい過去があったなんてねぇ・・。アイルランドの貧しい人々の住む地域で、問題だらけの大家族の元で育った彼は、若い頃、恋人のロージーと駆け落ちしてイギリスに渡り、彼女と共に夢を叶えようとしていたけれど、計画を実行する当日、ロージーは約束の場所に現れず、彼を捨てて一人でイギリスへ行くという置き手紙が・・。失意の彼はそのまま実家に戻ることはなく、刑事になったけれど、22年が過ぎた今になって故郷で当時ロージーがイギリスへ行くために荷物を詰めたスーツケースが発見され・・というストーリー。

 フランクの家族の人間ドラマが凄い。飲んだくれの父親は酔って家族に暴力を振るい、母親は嫌味を言ってばかり、お金がなく兄と姉は学校を辞めて弟たちの面倒を見ざるを得ないような家庭・・。ありがちな設定だけど、この家族は両親も兄弟もキャラが立っていてとてもリアルで、彼らの絶望が伝わってくる読ませるストーリーが流石だと思った。警察もので刑事のつまらない私生活が長々と書かれていると読み飛ばしたくなることもあるけど、これだけ凄い家族ドラマなら文句はないわ。複雑な家族関係や、縺れた恋愛、うまくいかない人生に対する失望等、とても読み応えのある内容だった。家族の問題が事件と関連していて、やるせない展開に胸が苦しくなるようなストーリーが素晴らしい。苦しみを抱えたフランクの複雑なキャラクターも魅力的で良かった。

 ミステリーの本筋とは関係ない登場人物の会話で、何気なく社会を批判する発言があったりして、作者の意見を登場人物に代弁させているんじゃないかと思うけど、そのセリフがなかなか深くて色々考えさせられた。そういうところも上手いと思う。人気作家で評価が高いのも納得。3作目にしてこのシリーズにすっかり嵌ってしまったというのに、これ以降は翻訳されていないのよねぇ。次作の主役はフランクと警察の同期のスコーチャーらしい。本作では彼の部下のスティーヴィーのほうが切れ者で、スコーチャーは自説に固執してあまり良いところがなかったけど、主役になったらどうなるのか興味あるわ。私は早川書房が出している新しいシリーズよりもこちらのシリーズのほうが好きなのよね。ドラマ化されていることだし、残りの3作も出してくれないかしら・・。

 

【既刊の感想】

1作目→悪意の森 2作目→道化の館

 

新シリーズ→捜索者