S.A. コスビーは評価の高い作家だけど、ノワール系は苦手なので前の2作には食指が動かず読んでいなかったのよね。この最新作は元FBIの保安官が主人公で、普通の警察ものらしいので読んでみた。黒人の主人公が人種差別を受けながらも毅然とした態度で保安官の職務を遂行する姿がとてもリアルに描かれていて、これは作家本人が黒人だからこそ書けるストーリーだと思う。
黒人に対する風当りの強い田舎町で保安官として働く主人公のタイタスは、色んなものを背負って常に自分を追い込んでいるような印象の、なかなか複雑なキャラクターだった。シェイクスピアやダンテを引用するようなインテリで、FBIで培った経験を元に難事件に挑むところがカッコいい。
高校での発砲事件から恐ろしい事実が明らかになり、残忍な殺人鬼の正体を突き止めるために保安官事務所の面々が奔走するストーリーで、保安官補たちのキャラクターもそれぞれ個性があり、タイタスと彼らの人間関係も興味深かった。
残虐な殺人事件を軸に、人種差別問題も盛り込んだ社会派のミステリーで、文章も格調があり、高い評価を得ているのも納得の作家だと思う。