エミリー・ヘンリーの邦訳2作目。旅行好きでいつも飛び回っていて、派手な服装を好む冒険好きなポピーと、穏やかで地に足の着いた生活を好む真面目なアレックスは、性格も人生に求めるものも正反対で何も共通点が無いにもかかわらず、大学時代に出会ってから10年以上、毎年夏には一緒に旅行に出掛け友情を育んできた。お互いに恋人としてはふさわしくないと思っていた2人の長年にわたる友情と恋を描いた物語。
友達から恋人になるというのはロマンス小説では人気のあるテーマだし、自分と全く違うタイプの人に惹かれるというのも定番で、特に目新しいところはないにもかかわらず、リアルなキャラクター描写に引き込まれ、2人の関係をハラハラしながら見守りつつ読んでいた。真面目で自分のことを退屈な男だと思っているアレックスは、ロマンスのヒーローとしては地味なキャラクターながらとても魅力的で、その優しさにほっこりさせられた。恋人同士ではなくてもお互いのことを大切に思っている2人の関係がとても素敵で、2人が一緒に旅行を楽しんでいる姿が活き活きと描写されているのが良かった。実際、よほど気の合う人でないと旅行で何日も一緒に過ごすのはキツイので、旅行友達というのは貴重な存在だと思うし、それがいつしか掛け替えのない相手になっていたというのは大いに頷けるわ。
強いて言えば、2人が仲違いしたという2年前の旅行中に一体何が起きたのかが最後のほうで明かされるけど、引っ張った割には想定通りの内容で肩透かしだったような。それでもお互いに相手にふさわしくないと思っている2人の一筋縄ではいかない関係にヤキモキしながら読むのがとても楽しかったし、終盤のポピーの告白にはウルっときてしまった。「本と私と恋人と」が気に入った人ならこちらも読んで損はないと思う。好みの問題だけど、ヒロインのキャラクターは「本と私~」のほうが好きかな。文芸エージェントという職業も興味深かったし。ヒーローは甲乙つけがたいけれど僅差で本作のアレックスかなぁ。「悲しげな子犬顔」にすっかりハートを射抜かれてしまったわ (笑)。