ロマンス小説感想日記

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海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

愛する心を取り戻すなら メアリ・バログ

 紙の本より発売が早かった電子書籍を購入。戦争で傷を負った人達が主人公のSurvivor's Club シリーズ5作目。今作は顔に傷がある伯爵、ラルフがヒーロー。ヒロインは家族の醜聞で社交界から爪弾きにされ、オールドミスになり、貴婦人のコンパニオンになった令嬢、クロエ。偶然にも、先日読んだD・バークの「禁断の公爵~」とヒロインの設定がほとんど同じだったのでつい比べてしまうけど、やはりM・バログはキャラクターが奥深いし、ロマンスも一筋縄では行かないので、読み応えが段違いだわ。

 ヒロインは、本人は悪くないのに家族のせいで社交界から追放され、婚期を逃してしまった気の毒な女性で、知り合いの高齢の公爵夫人のコンパニオンとして家に置いてもらっている。公爵夫人に感謝しつつも、つい自分の孤独を嘆いて皮肉っぽくなってしまうところに人間味が感じられる。家族のスキャンダルだけでなく、ヒロインの生い立ち自体がそもそも複雑で、難しい境遇にありながら前向きに人生を切り開いていこうとするところが偉い。公爵夫人の孫息子が家に来た際に、彼が結婚したくないけれど必要に迫られているのを知り、最後のチャンスとばかりに、自分は若い令嬢と違って結婚に幻想を抱いてないので、愛も求めずひたすら妻の役割に徹するから、お互いの利益のために結婚しないかと提案する。自分からプロポーズする図々しさにちょっと引いたけど、ヒーローに「あなたに興味が持てません!」とかなりキツい断り方をされ、落ち込んで部屋に籠るところは可哀相だった。まあ、出会ってすぐに女性から求婚するなんて、何だこの女は、玉の輿狙いか?と思われても仕方ないわね。それでも結局結婚し、だんだん愛が芽生えていくのがロマンス小説というもので、この悲惨な始まりからどうやって関係を発展させていくのかが見どころなのだけど、M・バログはそういう微妙な恋愛感情の変遷を書かせたら抜群で、心が通じ合ったと思ったらまた自分の殻に閉じこもったり一進一退の関係にヤキモキ!喧嘩をしたときには、かなりグサッとくる言葉を投げつけたりしてハラハラ!(こんな相手の痛いところをずばり突くセリフがよく書けるなあとちょっと感心した。)ヒロインが動転して発作的に自分の髪をジョキジョキ切ったりするのも真に迫ってて面白かったし、相手がちょっと微笑んでくれただけで心が温かくなったりする繊細な心情を自然に書けるところは流石。脇役もユニークな人が多くて、特に牧師をしているヒロインの弟は、ヒーローの昔の学友でもあり、なかなか興味深い人物だった。

 ヒーローは戦争で体に傷を負っただけでなく、自分が一緒に軍に入るように説得した友人が戦死してしまったことで罪悪感に苛まれていて、心を開かせるのが難しいキャラクターなだけに、ついにヒロインの前で涙を流し、悲しみを吐露した時の感動は大きかった。オールドミスで苦労してきたヒロインだからこそ、彼を癒すことができたのね・・。良かった良かった。満足の一作でした。 

愛する心を取り戻すなら (ライムブックス)

愛する心を取り戻すなら (ライムブックス)

  • 作者: メアリ・バログ,山本やよい
  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2019/09/05
  • メディア: 文庫
Only a Promise (Survivors' Club)

Only a Promise (Survivors' Club)

  • 作者: Mary Balogh
  • 出版社/メーカー: Piatkus Books
  • 発売日: 2015/06/02
  • メディア: ペーパーバック

 

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