ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

扉は今も閉ざされて シェヴィー・スティーヴンス

 これはとてもショッキングな内容のサスペンスだった。誘拐されて約1年間ずっと監禁状態で、殴られレイプされ人間性を踏みにじられながらも生き延びた女性の物語。何とか脱出することは出来たけれどトラウマが酷すぎて以前の自分には決して戻れない。事件後、精神科医とのセッションでヒロインが自分の経験を語る形で書かれていて、その恐怖や絶望感に同調して話に引き込まれる。生き延びるために犯人をなだめようと必死で媚びた態度をとり、そんな自分を嫌悪したりするのが涙ぐましい。犯人に生活すべてを支配され、無理やり妊娠させられ、医者もいないところで自力で出産するとか怖すぎる。あまりにも壮絶な事件でいたたまれないけれど、これだけの経験を生き延びたヒロインの強さに感服する。刊行当時に話題をさらい、Thriller Awardの新人賞に選ばれたというのも納得。

 終盤、捜査に進展があり誘拐事件に黒幕がいたことが明らかになるのだけれど、それがさらにショッキング。ヒロインにとってこの衝撃の事実はとうてい受け入れ難いもので、真実から目を背けようとするのも無理はなく、そのせいで黒幕の人物を逃してしまわないかとハラハラさせられた。誘拐されてとんでもない目に遭った上にこの仕打ちで、本当に救いのない事件だったけど、それでも事実を受け入れて前向きに生きていこうとするところが立派。捜査を担当した刑事さんとのロマンスらしきものがちょっとだけあり、ひどい事件だけど希望が感じられるエンディングだった。恐ろしい監禁生活で、ぎりぎり正気を保っているヒロインの今にも崩壊しそうな心理状態が非常にリアルに伝わってくるすごいサスペンスで、一読の価値はある作品だと思う。

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