ロマンス小説感想日記

翻訳ミステリー&ロマンス小説感想日記

海外ミステリーとロマンス小説のブックレビュー

遥かなる夢をともに コートニー・ミラン

 今月新作が発売になるコートニー・ミランの既刊で未読なのが1冊だけあったので読んでみた。これはBrothers Sinisterシリーズの2作目。1作目と3作目はだいぶ前に読んでいて、どちらも割と良かったけど、この2作目はキャラクターがかなり癖が強くて好みが分かれるかも。

 ヒロインには持病のある妹がいて、後見人の叔父が怪しげな医者を見つけてきてはとんでもない治療を受けさせようとするので、それを阻止するために妹が成人するまで結婚しないと決めていて、派手すぎる悪趣味なドレスを着て、失礼な態度で男性を寄せ付けないようにしている。結婚したくないのはわかるけど、やってることが極端で、そこまでしなくても・・・という気がした。ヒーローは公爵の庶子で、政治家を目指している。平民なので学生時代に貴族の子息たちから蔑まれていたために少々卑屈なところがあり、ヒロインのことを好きになっても何だか煮え切らない。主役の2人ともちょっと屈折した複雑なキャラクターで興味深いけれど、ロマンスとしてはちょっと自分の好みと違うかなあ・・。

 脇役も個性的で、ヒロインの妹が恋に落ちるのがケンブリッジに留学しているインド人で、彼がセポイの乱に言及してさりげなくイングランド人を批判するところとか、この作者らしいと思った。(コートニー・ミランはロマンス小説家の中では社会派のほうだと思う。)ヒーローの妹が女性の参政権を主張する活動に加わったり、彼の伯母が広場恐怖症だったり、濃いキャラクターばかりで面白いけど、そのぶん主役の二人のロマンスがちょっと薄く感じるかも・・。

 ヒーローとヒロインの成長の物語としては良く出来ていて、政治の世界でうまく立ち回るために貴族に迎合し、言いたいことを言えずにいたヒーローが、ヒロインに恋したことで自分を見つめ直し、堂々と自分を主張できるようになって、ありのままの彼女を受け入れ愛するようになる展開はとても上手い。作者の主張が伝わってくるストーリーだと思う。

 

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 ところで、ロマンス小説の読者にはおなじみのRITA賞ですが、去年は主催するRWA(Romance Writers of America)のゴタゴタで中止となり、このままなくなってしまうのかと心配していたけれど、今年からVivian賞になって無事に再開したので一安心。でもそのゴタゴタの発端になったのがコートニー・ミランの発言なんですよね。知ってる人も多いと思いますが、RWAのメンバーで中国系アメリカ人のコートニーが、twitterで他のロマンス作家の作品の中国人に関する記述が差別的だと指摘し、その作家を人種差別主義者だと批判したことで、RWAからお咎めを受けたけれど、そのことで論争が巻き起こり、コートニーに賛同する作家がRITA賞への参加を取りやめたせいで開催できなくなったという・・。その後RWAはシステムを見直しRITA賞は終了させて、RWAのアフリカ系の創設者の名前にちなんだVivian賞が新しく設立されたとのことです。(私もネットの記事をざっと読んだだけなのでもし何か間違ってたらすみません。)

 そしてコートニー・ミランはその騒動の後、何と中国人が主人公のヒストリカルロマンスを書いている!自分の中国人としてのルーツを示したかったんでしょうか。

 The Duke Who Didn't (Wedgeford Trials Book 1) (English Edition)

 正確には、イギリス人と中国人のハーフの公爵とイギリスに住む中国人女性のロマンスで、ヴィクトリア朝の話だそうです。英国貴族のロマンスで無理やり中国人を主役にしなくても・・と思いますが、原書の評判はそこそこ良いみたいです。

 

そういえば昔、ハーレクイン・ヒストリカルで中国人のヒロインの話を読んだ気がして調べたらこれでした。

 チャイナ・ドール (ハーレクイン・ヒストリカル 77)

古いブログに感想を書いてましたが、正しくは、ヒロインは中国育ちのイギリス人でした。トンデモ設定の珍作ですが、割と面白かったです。