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ひとりの双子 ブリット・ベネット

ひとりの双子

ひとりの双子

The Vanishing Half: Shortlisted for the Women's Prize 2021 (English Edition)

The Vanishing Half

  • Bennett, Brit
  • Dialogue Books

 

 この原書は多くの賞にノミネートされた2020年のフィクションの話題作で、年間ランキングでも上位に入っている超ベストセラー小説。

 1960年代のアメリカで、肌の色が薄い黒人ばかりが住む小さな町で生まれ育った双子の姉妹の物語。その町では色の濃い黒人を差別していて、子孫がより肌の色が白くなるように出来るだけ色の薄い黒人同志で結婚してしているらしい。双子のデジレーとステラはその町でも特に美人で白人と間違えられるほど色が薄かった。黒人が自分たちを肌の色の濃い薄いで差別しているというのに驚いたけれど、それだけでなくトランスジェンダーの登場人物も出てきて、思った以上に色んなテーマが詰め込まれた凄い小説だった。複雑なテーマで感想が書きづらく、内容にだいぶ触れているので、以下ネタバレ注意。

 双子は16歳で家出して都会へ行き、低賃金の仕事に就いて何とか生活していた。ところが妹のステラが仕事で失敗してクビになってしまい、お金に困ってより高い賃金を得るために白人の振りをして秘書の仕事に就く。働いているうちに白人の上司に見初められて付き合うようになり、彼の転職先について行くことになって、姉のデジレーに内緒で出て行ってしまう。その時からいつも一緒だった双子の道が分かれ、デジレーは黒人として、ステラは過去を捨て白人として生きることに。デジレーは肌の色がかなり濃い黒人男性と結婚して真っ黒な娘を産み、ステラは白人男性と結婚して金髪碧眼の娘を産む。

 2人の人生の対比が興味深いけれど、結局どちらもあまり良い人生を歩んでいないのよね。デジレーは夫がDV男で、暴力に耐えかねて故郷に戻ってくるし、ステラは自分が本当は黒人だということがいつかバレるのではないかと怯えながら暮らしている。デジレーの娘のジュードは色の濃い黒人が差別される町で虐められて苦労したけれど、優しくて賢い娘に育ち、医学部を目指している。ステラの娘のケネディは、金持ちの家で甘やかされて育ったために自己中で、大学を中退して女優を目指している。そしてジュードが付き合うようになるのがトランスジェンダーの白人男性で、女性として生まれたけれど男性になるために過去を捨て、怪しい輩からホルモン剤の薬を買って注射して、いつか闇医者に手術してもらうためにお金を貯めている。この時代のLGBTの人達は本当に大変だったのね・・。

 人種差別にDV、LGBTとテーマがテンコ盛りでヘビーな内容だった。色々と考えさせられる小説なのは間違いないし、この作品が高い評価を得ているのには頷けるけど、かなり長い小説なのに、最後まで読んでもオチがないというか、色んなアイディアを投げかけて終了という感じなのよね。まあ扱いが難しいテーマなので、1冊の小説としてまとめただけでも凄いと思うし、敢えてそういう書き方をしているのかもしれないけど、それぞれのキャラクターの行動の意図をもう少し掘り下げてくれると良かったかも。宣伝文句によれば「ちょっと怖くなるくらい、完璧な小説。」らしいけど、どちらかと言うと、起承転結の結を端折った不完全な小説という気がするなあ。

 内容はさておき、この翻訳者さんが多用している「~していず」という日本語に違和感を覚えたのは私だけかしら。慣れていず、会っていず、ここにいず、覚えていず、誰もいず、見ていず、等々。これらは「~しておらず」と言うのが普通じゃないのかしら??それから、上流階級のお金持ちのビジネスマンでも大学教授でも、男性の一人称が全部"おれ"になっているのが少し気になった。

    

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