フランスの作家は、ギヨーム・ミュッソや、ミシェル・ビュッシも読んでみたけど、やはりピエール・ルメートルが一番面白いな。これはミステリーというより、12歳で意図せず殺人を犯してしまった少年の人生を描いた人間ドラマで、特別凄いトリックがあるわけではないけれど、なかなか引き込まれるストーリーで読み応えがあった。
主人公のアントワーヌは、両親が離婚し、厳しい母親に育てられている物静かな少年で、色々な不幸が重なって、ある日、隣家の6歳の男の子を殴ってしまい、殺す気はなかったのに男の子は死んでしまった。恐怖に駆られて死体を森に隠したけれど、警察が捕まえに来るのではないかと怯えながら過ごすことに・・。
このアントワーヌが、何とも哀れを誘う気の毒な少年で、ヴェルーヴェン警部を彷彿とさせる不幸体質なキャラクターなのよね。殺人を犯して死体を隠蔽したとは言え、そのことで良心の呵責に苦しめられ、自分を罰し続けて不幸な人生を送っているアントワーヌに思わず同情してしまった。罪悪感というのは恐ろしい牢獄なんだなと。
後半は、大学生になり恋人ができたアントワーヌが、三角関係の泥沼に嵌るメロドラマのような展開で、意外だったけれど面白かった。ラストで明かされた事実には意表を突かれ、色々と考えさせられた。
謎解きがメインではないので、ミステリーだと思って読むと肩透かしかもしれないけれど、主人公の葛藤が克明に描かれていて心に訴える深いものがあり、読ませるストーリーだった。