これは期待外れだったなぁ。この作家の既刊はどれも面白くて気に入っていただけに残念。
出版社は"青春ミステリー"と謳っているけれど、前半はミステリーらしいところはほとんど無く、友達のいない15歳の男子高校生の主人公が学校でいじめられたりする日常が描かれていて、正直言って少々退屈だった。こういうのが読みたければ、もっと面白いYA小説が色々あるよねぇ。後半は多少ミステリーっぽくなるけど、それでも隣に越してきた黒人の少年との友情や、女の子をダンスに誘ったりするエピソードが多くを占めていて、ミステリーを期待すると肩透かしだと思う。最後の銃撃のあたりはハラハラしたけど、事件自体は謎解きより当時の黒人差別の状況を示すことがメインという印象で、あまり捻りのないストーリーだった。父親を早くに亡くした主人公を、父親がわりに親身に見守り世話を焼く隣人の男性のエピソードは感動的で良かった。
主人公が15歳の男の子なのに、地の文の一人称が"わたし"で、オジサンぽい語り口なのは、大人になった主人公が昔を振り返っている体で書かれているからだと思うけど、(S・キングの「スタンド・バイ・ミー」みたいな感じ)そのために主人公の行動を遠くから傍観しているような雰囲気になって臨場感に欠けるところがあり、共感しづらかったのよね。この作品は「償いの雪が降る」や「たとえ天が墜ちようとも」に出てくるロースクールの教授の少年時代を描いたストーリーとのことだけど、少年の成長の物語なら、少年の視点でYA小説のように書いたほうが読者の共感を得やすいのではないかしら。
A・エスケンスなら、これではなく Max Rupert のシリーズで未訳の "The Guise of Another"や "The Deep Dark Descending" を出してほしかったなぁ。