これは元々Wattpadという小説投稿サイトに掲載されていた作品だそうで、そこで人気を得て出版されベストセラーになったらしい。ボーイズバンド好きな作者が書いたOne Directionのファンフィクションで、Fifty shades of Greyの大学生バージョンとか言われている。これが日本で出版された時、あらすじを見たらジェイミー・マクガイアの「ビューティフル・ディザスター」にそっくりだったから、ヒット作の二番煎じみたいな作品だろうと当時はスルーしていたけど、昨年アメリカで映画が公開されたみたいで、日本でもnetflixで配信されているので、実際に映画化されたのなら面白いかもしれないと思い読んでみることに。
Wattpadの作品だからシロウトっぽい小説だろうとは思っていたけど、これはアマチュア作家の趣味レベルで大人が読むのはキツいかも。かなりお粗末な内容で、これがベストセラーだなんてビックリ。E・L・ジェイムズも特別上手い作家ではないけど、フィフティ・シェイズのほうがトワイライトをBDSMにするという発想の面白味があるし、文章もアナ・トッドよりはマシじゃないかな。
ヒロインは高校生の時は真面目で勉強一筋だったらしいが大学生になってハジケてしまったようで、かなりイタい行動に走っている。ヒーローはタトゥーとピアスだらけのパンク男で、One Directionのハリー・スタイルズをモデルにしている。清純なヒロインが不良っぽいヒーローに卑猥な言葉で迫られて、あれやこれやとイケナイことをされるという、ハリーが大好きな作者の妄想をそのまま小説にしたような内容で、色気づいた大学生カップルの痴話喧嘩を延々と読まされているような底の浅い話だった。まあteen soapと言われるドロドロ系の青春ドラマみたいなストーリーだから、映像化には向いているのかもしれない。原書1冊分を4冊に分けてるから一応4巻まで読んだけど(4分冊ってどうよ。よっぽど版権料が高かったのかな。)イチャイチャしてケンカしての繰り返しで、最後にヒーローがやらかしてヒロインが去っていくとこで終わってた。次巻でまた仲直りするんだろうけど続きはもういいかな。
↓続編のほうが装丁が良い。
↓原書はこちら graphic novelも。
(追記)
この作品、映画は大人気のようで既に4作目まで製作されNetflixで配信中、5作目の"After Everything"が2023年配信予定で、さらに前日譚の"Before"も製作予定とのこと。原作小説を酷評しちゃってすみません。若い女の子の琴線に触れるストーリーなんでしょうね。だいぶ前に掲載したこの記事が今でも結構閲覧されていて人気が窺えます。上に書きましたが、”After”と似たようなストーリーの”Beautiful Disaster"のほうが小説としての完成度は高いと思うので、Afterの小説を気に入った方におススメです。そちらも映画化されて2023年アメリカで公開予定。配給元は"After"と同じVoltage Pictures。日本での公開は未定ですが、そのうちどこかで配信されるかも。
以下は、"AFTER"や"Beautiful Disaster"のような作品がカテゴライズされているロマンス小説のNew Adultというジャンルについて調べて書いてみました。長いので興味のある方だけどうぞ。
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New AdultというのはYA小説よりも少し上の18歳から20代前半辺りの読者をターゲットに書かれた小説で、欧米では最近このジャンルのロマンスがトレンドになっている。主人公の視点で書かれていることが多く、文体はヤングアダルトに近くて割とカジュアルだけど、性的な描写があるというのが特徴。
ロマンス小説にも流行りがあって、トワイライトのヒットの後にはパラノーマル・ロマンスがブームになり、フィフティ・シェイズがヒットした後にはeroticaがブームになった。そして一説によればフィフティ・シェイズのヒロインが女子大生だったことから、出版社がヤングアダルトより少し上の年齢を対象としたロマンスに需要を見出し、New Adultというジャンルが注目されるようになったそうで、元々は作家が自費出版して口コミで人気が広まるというのがパターンだったけれど、今では大手の出版社がそれらの作家と契約し、ベストセラーをたくさん生み出しているらしい。
このジャンルの草分け的な作家がジェイミー・マクガイアで、日本でも早川書房が2013年に「ビューティフル・ディザスター」を出している。刊行された当時私も読んだけれど、正直この手のロマンスが日本で受けるとはあまり思わなかった。というのは、日本ではNew Adultの対象年齢にあたる人は、あまり翻訳ものの小説は読んでいなくて、実際にはもう少し年齢がいった人が読んでいると思うので、大人が読むにはこのジャンルのロマンスは内容が若者向けすぎてキツいんじゃないかと。アナ・トッドは内容は幼稚だけど性描写は露骨だから、どういう層を狙って出したのか謎だなあ。そういうわけで、日本で売るのは難しいジャンルじゃないかと以前は思っていた。
それでも海外ではNew Adultのロマンスは勢いを増し続け、それにつれて作品のテーマも幅広くなり、面白い作家がたくさん出てきた。コリーン・フーヴァーはこのカテゴリーの代表的な作家だけど、自分は1つのジャンルに押し込められたくない、みたいなことを言っていて、大人が読んでも十分面白い作品を書いていると思う。「世界の終わり、愛のはじまり」はとても良かった。この作者はデビュー作の「そして、きみが教えてくれたこと」から頭一つ抜けていたと思う。最近はL・J・シェンとかコリーン・フーヴァーが翻訳されて、日本でも海外のロマンス小説の傾向が反映されてきたように思う。これからも海外のトレンドに沿ったタイトルを翻訳して出版してほしい。と言っても今では現代もののロマンスを出してくれる出版社が減ってしまったけど・・。