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海外ミステリーとロマンス小説のブックレビュー

すみれの香りに魅せられて トレイシー・アン・ウォレン

 トレイシー・アン・ウォレンも人気があるのか次々と翻訳が出てるわね。売れてるのかな。今月も「最後の夜に身をまかせて」が発売予定だし。でも今回レビューを書くのはだいぶ前の作品で、古くてすみません。

 この作家は、初期のほうが良かった気がする。デビュー作の「あやまちは愛」はRITA賞をとっていて面白かった覚えがあるし、「昼下がりの密会」も結構好きな作品だけど、それ以降はちょっと印象が薄いかも。それなりに面白いけど特別際立つところはないという感じで。

 このシリーズの前作までは一応読んでいて、久しぶりに続きを読んでみたけど、やはり悪くはないけど普通という印象だった。ヒーローは貴族だけど数学者で、軍の依頼で暗号を開発している。ヒロインはフランスとイギリスのハーフで、家族の弱みを握られ仕方なくスパイとしてヒーローの家の女中となり、暗号を盗もうとする。無理やりスパイをさせられているヒロインがヒーローを好きになり葛藤するところはそれなりに良かったけれど、如何せん深みが足りないというか上滑りな印象。例えば、ヒロインが自分の気持ちを反芻する際、ヒーローのことを、創造性があり頭が切れ、思いやりがあって、温厚だけど筋が通っていて、ユーモアもあって人間としても素晴らしいとかなんとか思うわけだけど、女中として時々話をするだけでそこまでわかるなんて、恐るべき洞察力だな、オイ、と突っ込まずにいられなかった。ヒーローのそんなに素晴らしい人間性を示すような描写があったっけ??と。いまひとつ説得力に欠けて、話にのめり込めなかったのよね。やはりこのへんが、トレイシー・アン・ウォレンが一流になりきれないところじゃないかしら。ジュリア・クインやメアリ・バログはそういう感情の描き方が抜群に上手いから、比べるとやはり見劣りするわね。

 最近はこの作家もコンテンポラリーを書いているみたいだから、ヒストリカルは代り映えしないので、そっちを翻訳して出してほしいなあ。 

すみれの香りに魅せられて (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)  The Bed and the Bachelor (Byrons of Braebourne Book 5) (English Edition)