ロマンス小説感想日記

翻訳ミステリー&ロマンス小説感想日記

海外ミステリーとロマンス小説のブックレビュー

眠れない夜の秘密 ジェイン・アン・クレンツ

 J・A・クレンツの2015年の作品。今作のヒロインは、高校生の頃、正当防衛で人を刺し殺した経験があり、そのせいで悪夢に悩まされている気の毒な女性なので、この作者がよく書く飄々としたタイプとは違うかなと思ったけど、読んでみたらいつもと同じだった。

 上司が殺害されているのを発見し、過去の悪夢が再び甦ってくるという恐ろしげなストーリーの割にそこまで怖くなく、この作者らしいユーモアが感じられた。ヒロインの勤めているのが普通の会社じゃなく自己啓発の専門家の事務所で、その専門家のためにブログや本のゴーストライターをしているという、意表を突いた職業が面白い。ヒロイン自身はその自己啓発の専門家の意見に心から賛同していて、ポジティブ・シンキング界(?)というインチキ臭い業界の人にしてはとても純粋な女性なんだけど、やはり少々浮世離れした印象で、その状況にふさわしいポジティブ・シンキングの格言をいちいち考え出したり、オーガニック食品に強いこだわりを持っていたり、いかにもこの作者が書きそうな個性的なヒロインだった。

 ヒーローとの出会いが、友達がセッティングしたブラインドデートというのも面白い。ヒロインのことを、本気でポジティブ・シンキングが万能だと信じているなんてオメデタイと思いながらも、なぜか心惹かれて付き合い始め、どんどん彼女に夢中になっていくヒーロー。海兵隊出身の屈強な男性で、退役後はベンチャーキャピタリストとして成功を収めた大富豪なのに、ベジタリアンの彼女が作ってくれた豆腐の串刺し(?)を、“彼女と一緒に食べると驚くほど美味しい” なんて言っているのが微笑ましく、仕事のパーティーに彼女を同伴することになり、帰りが夜遅いから自分の家に泊まっていくように誘いたいけど、何て言ったらOKしてくれるかなあと悩んだりしているのがカワイイ。それでもここぞという時には身を挺してヒロインを守ってくれるのが素敵。

 ミステリーとしても良く出来ていて犯人捜しの過程も楽しめる。ベテラン作家の安心して読めるロマンティック・ミステリーで、割と多作な作家なのにどの作品も一定のクオリティを保っているのは流石。

Trust No One (English Edition)

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