ハーラン・コーベンを読むのはこれが2冊目だけど、やはりこの作者は上手い。ハードボイルドな警察小説でもなく、サイコスリラーでもなく、独特な作風。プロットがかなり緻密に練られていて、それぞれの登場人物が最初は無関係に見えるけれど、だんだんつながりが明らかになっていく展開が流石。ミステリーとして面白いだけでなく、キャラクターが凄くリアルで人間ドラマとしても心に訴えるものがある。
主人公は妻と3人の子供がいる金融アドバイザーで、大学生になって家を離れた長女がドラッグの売人と付き合うようになり、麻薬中毒になって行方がわからなくなってしまう。やっと探し出したと思ったら、その売人が殺されて娘はまた失踪。必死で娘を探すうちに、恐ろしい事実が明らかになってくる。主人公は特別強いわけではなく、家族を愛している普通の父親で、娘がこんなことになってしまったのは自分の育て方が悪かったのだろうかと自問自答し自分を責め、幼い頃の可愛かった娘を思って涙するようなヤワなところもある男性だけど、そこが良いのよね。娘を救うのに必死になっている姿が等身大のヒーローという感じで共感せずにいられない。妻に対しても娘に対しても絶対に揺るがない愛情を持っていて、その愛の深さに感動する。
カルト教団が絡む事件で衝撃的な内容だけど、すごいどんでん返しで読者を驚かせるという感じではなく、読んでいると結構ヒントがちりばめられていて、読者が推測できるようになっている。実際、最後に明らかになった真相は、薄々そうじゃないかと思っていたとおりで、エピローグで自分の推理の答え合わせをしたような感じだった。でも驚くようなトリックがあるわけではないのに最後まで読者を引きつけて読ませるところがこの作者の凄いところで、事件の真相はなんとなく推理できても、キャラクターの行動が予測できず展開が読めないので、一体どうなるんだろうとどんどんページをめくってしまう。登場人物は多めだけど、無駄なキャラクターは一人もおらず、誰もが重要な役割を担っていて、最後に全てが繋がるストーリーは見事と言うしかない。
人は愛する者のためならどんなことでもするというのがこの作品のテーマで、家族のドラマとしても、子供がいる人ならきっと心に刺さるものがあると思う。
- 作者:コーベン,ハーラン
- 発売日: 2020/12/08
- メディア: 文庫