カーラ・ケリーのアメリカン・ヒストリカル。南北戦争後のアメリカ、ワイオミング州のララミー砦で軍医として働く少佐と、夫から虐待を受けて離婚し、新天地へやってきた女性のロマンス。ウェスタンものは、英国貴族の煌びやかなロマンスと比べると地味だけど、独特の面白さがあって私は好きだな。これはハーレクインとは思えないほど時代考証が丁寧で、陸軍の砦で働く軍人たちとその家族の生活がリアルに描き出されていて読み応えがあったし、傷ついたヒロインと孤独なヒーローの心温まるロマンスがとても良かった。
DV夫に殴り殺されそうになり、逃げだして離婚したけれど息子を元夫に取り上げられて会わせてもらえず、失意の底にありながらも親戚の伝手で教師の職を得て新生活を始めようとララミー砦へやって来たヒロイン。離婚女性への風当たりが厳しい時代だけに本当に気の毒で同情せずにいられない。そんな彼女の味方になって何かと助けてくれる優しいヒーローが素敵だった。南北戦争で北軍側の軍医として働いていた時に、北軍の助かる見込みのない瀕死の患者と、命を救えそうな状態の南軍兵士が同時に運び込まれ、医師としての判断で南軍兵士を治療したことを咎められ、司令官からずっと冷遇されているというエピソードが誠実な人柄を物語っていて、愛する妻を火事で亡くした孤独な彼には是非とも幸せになってもらいたいと思った。
あとがきによれば、作者は大学院でアメリカ史を専攻し、南北戦争やインディアン戦争を専門に学んだそうで、なるほど、当時の砦の状況のリアリティ溢れる詳細な描写にも納得だわね。史実を取り入れた興味深いストーリーと、不幸を乗り越えて結ばれる2人の感動的なロマンスを味わえる、クオリティの高い作品だった。エンディングがやや唐突な印象なのは、作者はもっと書きたかったけど、ハーレクインだから頁数の制限があって無理矢理そこで終わらせたのかなあと推測。実際、ハーレクイン小説のカテゴリーに入れておくのは勿体ない作品で、長編として書いても良かったと思う。