Alex Delaware シリーズ14作目。原書は今年38作目が刊行予定の人気シリーズだけど、翻訳は2006年に刊行された本作を最後に途絶えている。80年代に始まったシリーズで、刊行元も扶桑社、新潮社、講談社と変わりながら続いていたから、日本でも結構人気があったのかな。
この作家を読むのは初めてで、いきなりシリーズものの14作目を読んだから、キャラクターに馴染みがなくて多少の戸惑いはあったけど、まあ面白かった。主人公は臨床心理医のアレックスで、親友の刑事マイロのために殺人事件の捜査に協力している。マイロはゲイであることをカミングアウトしていて、刑事としてはなかなか珍しいキャラクターだと思う。ストレートのアレックスとゲイのマイロがコンビというのは非常に興味深く、2人の掛け合いに期待したのだけど、本作ではちょっと2人の関係がギクシャクしているような感じで、親友という割にはあまり友情が感じられなくて残念だった。アレックスには芸術家のガールフレンドがいて同棲中で、彼女との関係もすごく穏やかだし、あまり毒のないキャラクターで人と対立することも少なくて、こういうタイプ嫌いじゃないけど、若干物足りない気はしたかなあ。シリーズの最初から読んでいたらまた違うのかもしれないけど。
難病の患者の安楽死を幇助している胡散臭い医者が殺害される事件には興味を引かれ、容疑者が何人かいて誰が犯人でもおかしくないので先が読めず面白かった。犯罪捜査ものの主人公はアクション映画のヒーローみたいなタイプが多いけど、アレックスはいかにも心理医らしく行動よりも思考の人という感じで、事件のファイルをじっくり検証し、容疑者と話をして言動を細かく分析するのよね。だから全体的に地味な展開でアクション少な目だけど、沈思黙考型の主人公の頭の中を覗き見ているような作風が新鮮で、これはこれで悪くないと思った。