E・ヘンリーは今アメリカでバカ売れしている超人気作家なので、ずっと読んでみたいと思っていたのよね。最近のロマンス小説は新刊を購入してまで読みたいと思うような作品があまりなかったけど、これは買いでしょう。
ヒロインのノーラはNYでバリバリ働く文芸エージェントで、周りからは仕事一筋の冷たい女だと思われている。ヒーローのチャーリーは、初対面でノーラが担当する作家の新作をこき下ろした編集者で、二人の出会いは最悪だった。夏になり、ノーラは妹のリビーから一緒に田舎町へ旅行しようと誘われ、姉妹は8月の間ノースカロライナの小さな町のコテージに滞在することに。その田舎町でノーラは何とチャーリーに出くわす。
敵対していた二人が恋に落ちる楽しいラブコメだけど、それだけではなく、色々な人間ドラマが詰まっている心温まるストーリーだった。ロマンスも素敵だけど、ノーラとリビーの姉妹愛が泣けるのよ。母子家庭で育ち、母親を早くに亡くした後はノーラが母親がわりになってリビーの面倒を見ていたので、妹を守ることを使命のように感じ、いつも妹の幸せを願っているノーラに感情移入してしまったわ。チャーリーは家族に対して複雑な思いを抱えていて、その繊細で誠実なキャラクターがとても良かった。よくある "田舎町ロマンス小説" は、都会での仕事に疲れたヒーローがのんびりした田舎で地元の女性と恋に落ち、人生観が変わって仕事よりも大切なものがあることに気づくというパターンだけど、これはその逆を行く内容で、そもそも"田舎町ロマンス小説”を茶化したようなストーリーだし、主役カップルがどちらも田舎の生活には馴染めない似たもの同志で、ヒーローはヒロインのワーカホリックなところも丸ごと愛していて、彼女のキャリアを応援しているところが素晴らしい。欧米では仕事ばかりの人間は駄目だという風潮が強くて、勤勉さが過小評価されている気がするので、キャリアウーマンのヒロインを称賛するヒーローが新鮮で良かった。お互いを理解し大切にする本当にお似合いの二人で、笑いあり涙ありの素敵なロマンスだった。
ベストセラーを連発している今が旬の作家だけあって上手い。ジュリー・ジェームズよりも読み応えがあって良かった。昔人気のあったスーザン・E・フィリップスみたいなのが好きな方にもおすすめ。
Read more
チャーリーとノーラが一緒に編集に取り組んでいるダスティの新作「冷感症」(原語は "frigid") の主役がノーラにそっくりで、彼女をモデルにして書いたみたいなのに、その内容があまりはっきり書かれていなかったので、本当にそんなに怖い女として書かれていたのかちょっと気になった。ちょうどこの直前に読んだのがJ・H・コレリッツの「盗作小説」だったので、ノーラが、これは私のプロットだ!と言って作家を脅したりしたらサイコ・スリラーになるな・・とか思いながら読んでたわ。チャーリーもノーラも出版業に携わっている設定なので業界ネタが興味深く、作家を支える裏方の仕事も大変なのねと思った。この「本と私と恋人と」では出版業界の裏側がポジティブに描かれているのに対し、売れない作家が主人公の「盗作小説」は業界を痛烈に皮肉っていて、それもまた面白かった。