白人女性の作家がメキシコ移民の話を書いたことでバッシングを受けて、アメリカではかなり炎上したらしい2020年の話題作。なかなか凄い内容だったけど、島国に住む日本人にはやや共感しづらいかもしれない。
南米からの移民というと、貧困層の人々が苦しい生活から抜け出すために国を出るのだろうと思うけど、この小説のヒロインは教養もあり英語も話せて、アカプルコでそこそこ良い暮らしをしている。英語新聞記者の夫と8歳の息子がいて、自分で書店を経営しているけれど、夫が麻薬カルテルの記事を書いたために、カルテルから目を付けられ、親戚一同皆殺しにされてしまう。彼女と息子はたまたま逃れることが出来たけれど、町は役人や警官もカルテルの息がかかった人間ばかりで誰も信用できず、いつ殺されるかわからないので、アメリカへ行くことを決意する。
ヒロインとカルテルのボスが出会うエピソードなんかはメロドラマっぽくて、女性の作家が書きそうな内容だと思った。アメリカ人の読者でも共感できるように、ヒロインを、中流家庭のアメリカ人女性とあまり違わない普通っぽい女性にしたんだろうね。そんな普通の女性が幼い息子を連れてアメリカに密入国する危険な道中を描いていて、命がけの旅は波乱万丈でドラマに満ちていた。途中で知り合ったホンデュラスから来た姉妹の境遇は悲惨すぎたし、喘息持ちの少年も気の毒だった。確かに凄い力作だけど、小説なので都合よく脚色している部分もあると思うので、こういう内容をフィクションとして書いて、エンターテイメントにして良いのだろうかという気も。読み応えはあったし密入国の実情が興味深かったけど、フィクションとして楽しむには重すぎる内容だった。