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公爵令嬢と月夜のビースト ロレイン・ヒース

公爵令嬢と月夜のビースト (mirabooks)

公爵令嬢と月夜のビースト (mirabooks)

  • ロレイン ヒース
  • ハーパーコリンズ・ジャパン

 

 Sins for All Seasons シリーズ最終作。宣伝文句によれば「ロレイン・ヒース史上最高傑作!!」だそうで、出版社も大きく出たわね。この作家の既刊を全部読んでる自分に言わせてもらえば、面白かったけど最高ではないと思うな。

 ヒロインのアルシアは公爵令嬢として裕福な生活を送っていたけれど、父親が女王暗殺の策略に加わっていたことが発覚して反逆罪で処刑され、爵位は剥奪、財産は没収、ショックを受け絶望した母親も亡くなり、残された彼女と2人の兄はメイフェアの屋敷を追い出され、今は貧民街で暮らしている。酒場で給仕の仕事に就いた彼女は、ある日、客としてやって来たヒーローと出会う。体が大きく筋肉隆々で"ビースト"と呼ばれている彼はトゥルーラヴ家の一員で、腕っぷしも強く皆に恐れられているけれど、弱い者を助けずにいられない親切で優しい男性。庶子だけど海運業で成功して裕福な彼は、娼館の建物を所有して、娼婦たちの安全を気にかけていて、彼女らが他の仕事に就けるようにレディとしての教育を施してほしいと、アルシアに持ち掛ける。

 何とも悲惨な境遇のヒロインで、これは面白そうだと読み始めたけれど、難点がひとつ。ヒーローの申し出を受けた彼女が、交換条件として高級娼婦になるために男性の誘惑の仕方を教えてほしいと言い出すのよね。社交界から追放され、これまで友人だと思っていた人たちから蔑まれるようになって傷ついているというのに、貴族の愛人になって社交界に返り咲こうとするなんて一体どういう思考回路なのか。そんなことをしたら余計に軽蔑されるだろうに。どういうわけかヒーローも理解を示して彼女の決断を尊重するという。ヒストリカル・ロマンスで無垢なヒロインがヒーローから愛の手ほどきを受ける話はよくあるけど、そういうシチュエーションに持っていくために、無理のない設定を考えるのは意外と難しいわよね。たいていちょっと不自然でツッコミを入れたくなる。これもヒロインが高級娼婦になりたいという動機がイマイチ解せなかったけど、ヒーローは優しくて素敵で、彼の意外な出自が判明してすったもんだするストーリーが(よくある展開だけど)面白かったし、2人とも最初からお互いにベタ惚れで、Hotで甘々なロマンスが楽しかった。

 この作家に関しては、甘目のロマンスより、不幸な主人公が悶え苦しむ(笑)辛いロマンスのほうが面白いと思うので、自分の好みからすると苦悩度が足りないけど、これはこれで良かった。次のシリーズではこのヒロインの兄たちが主役になるようで、父親が関わっていた暗殺の策略を暴いて名誉回復しようとしている彼らが一体どうなるのか楽しみだな。