現代もののロマンスで人気の作家がヒストリカルに初挑戦した作品。兄弟と三角関係になるというのが面白そうだと思い読んでみることに。この作家の既刊「悲しみの夜の向こう」はそこそこ面白かったので、期待できるかなと。(最近このレーベルはあまり読んでいなかったけど、竹書房の日で電子書籍がセール価格だったので買ってみた。)
最初に作者からの一言があって、「本書はタイトルも中身も一般的なリージェンシー・ロマンスらしくない、云々。ヒストリカル・ロマンスは、普通三人称で書かれるものだけど、私は一人称タイプの作家なので、この本も一人称で書いた。」とのこと。そして読んでみて思った。やはりヒストリカルは一人称で書くものじゃないなと。一人称で書くと登場人物の心理がメインになって必然的に情景描写が少なくなるので、時代の雰囲気があまり感じられないのよね。ここまで時代感が薄いと、リージェンシー・ロマンスの意味がないような・・。この作家は現代ものだけ書いていたほうがいいと思う。
このジャンルをたくさん読んでいる人なら、当時の貴族の生活とか、求婚の仕方とか、摂政時代のロマンスのパターンに精通しているだろうから、時代感の薄さも脳内で補完されて、この作品もそれなりに楽しめるかもしれないけど、読み物としてのクオリティは低いと思う。このジャンルに馴染みのない人が初めて本作を読んだとしたら、時代背景に関する説明がほとんどないので戸惑うんじゃないかな。
ロマンスも、ヒロインと伯爵とその弟が三角関係になるというのが読みどころなのに、弟が兄に復讐心を燃やしている理由が曖昧にしか書かれていなくて、どうにも説明不足だから説得力に欠けるのよね。それに、ヒロインは本当に兄と結婚できるのだろうか、もしや弟と結婚してしまうのでは?!と終盤まで読者に気を揉ませる展開なのに、邦題が「伯爵の花嫁~」って、タイトルでネタをばらしてるし。ヒストリカル・ロマンスはどこの出版社も残念な邦題が多いけど、これは酷い。作者の意図も汲み取れない読解力のない人がタイトルを考えたのか、それとも内容を把握せず適当につけたのか。
そういうわけで、これは失敗作じゃないかと思う。ヒストリカル・ロマンスの意義があまり感じられない作品だった。エピローグの内容から察するに、ヒーローの弟やヒロインの妹を主役にした続編を書いてシリーズ化できそうだけど、書いていないところを見ると、作者も実はそう思ってるんじゃないかな。
辛口のレビューになってしまったけど、自分としては闇雲にけなしているのではなく、根拠を示して悪いところを指摘したつもりです。もしこの作品を気に入っていて気を悪くされた方がいましたらすみません。