先日Netflixの新作 ハート・オブ・ストーンを見た。ワンダーウーマンのガル・ガドット主演、フィフティ・シェイズのジェイミー・ドーナンも出ているスパイもので、超傑作というわけではないけど、Netflixのアクション映画では面白いほうだと思った。この映画のストーリーと脚本を担当しているのがグレッグ・ルッカで、アメコミの原作者兼小説家だけど、映像化作品の脚本も手掛けて手広く活躍している。同じくNetflixで配信中のオールド・ガード ( シャーリーズ・セロン主演) も、この人のコミックを映画化したもの。
映画が割と面白かったので、この作家に興味が湧いて小説を読んでみようと思い立った。コミックのほうが多いけど、オリジナルの小説もいくつか書いていて翻訳も出ている。この「わが手に雨を」は、人気バンドのギタリストをしている20代の女性が主人公の一風変わったミステリー。音楽業界の内幕+殺人ミステリーという異色の取り合わせで、ヒロインの成長を描いたヤングアダルト小説のような雰囲気もあり、色んなテーマを盛り込みすぎて、ストーリーの方向性が定まっていないような印象はあったけれど、あまりないタイプのミステリーで、先の読めない展開が面白かった。
飲酒の問題を抱えているヒロインは、バンドのツアー中に何度も泥酔して一時的に解雇されることになり、家に帰って来たところを何者かに誘拐される。不思議なことにすぐに解放されて無事だったけれど、その後、不審な出来事が・・というストーリー。
ヒロインは、子供の頃は里親の元を転々とし、色々と酷い目に遭ってきたけれど、最終的には音楽好きの優しい夫婦に引き取られ、そこでギターの弾き方も教えてもらい、音楽の道に進んだ。刑務所にいる実の父親のことは憎んでいるけれど、妹のことを気にかけてくれる兄とは親しくしている。ヒロインの痛ましい子供時代のエピソードは、彼女のキャラクターに説得力を持たせているだけでなく、ミステリーの伏線にもなっていて、そういうところが上手いと思った。
最初のうちは、あまりミステリーっぽくなくて、盗撮された裸の写真がネットに流出してヒロインが弁護士に対応を相談するという展開で、一体どういうことなんだろうと思っていると、当初はそこまで凶悪ではなさそうに思えた事件が、後半には殺人にエスカレートし事態が逼迫してくる。バンドの話や、子供時代について書かれている部分も多いので、ストーリーに占めるミステリーの割合はそこまで高くないんだけど、思った以上に謎解きが良く出来ていて、真犯人の正体には驚かされた。
途中でヒロインがレズビアンだとわかり、女性刑事とのロマンスっぽいものが少しだけあって、突然のLGBT設定に少々当惑したけど、女性ギタリストにレズビアンのファンが多いというのは何となくわかる。音楽業界が舞台なのでもっとドロドロした話かと思いきや、バンドの仲間も意外と良い奴で、読後感も良かった。表紙やタイトルから想像するような硬派なミステリーではなく、予想外に色々な内容が詰まっていて、新鮮な驚きのある作品だった。