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恐るべき太陽 ミシェル・ビュッシ

恐るべき太陽 (集英社文庫)

恐るべき太陽 (集英社文庫)

Au soleil redoute

Au soleil redoute

  • Bussi, Michel
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 M・ビュッシは叙述トリックで読者をあっと言わせるタイプの作家なので、ネタバレせずに感想を書くのが難しい。それなら既に読んだ方向けに、この作家のトリックについて思うところを書いちゃおう・・ということで以下、かなりネタバレしていますので未読の方はご注意を。

 

 以前「黒い睡蓮」を読んだ時にも思ったけど、この作家は序盤の展開がのらりくらりとしていて、最初の掴みがイマイチなのよね。事件が起きてからは面白くなるんだけど、そこに至るまでの前置きが長くて早く本題に入ってくれよと言いたくなる。(私はこの作家を読むのはこれが2作目なので、他の作品は違うのかもしれないけど。)

 フランスの人気作家が太平洋の島で一週間の「創作アトリエ」を開催することになり、応募した5人の女性がペンションにやって来る。ところが途中で作家が失踪し、参加者の年配の女性が殺害され・・というストーリー。参加者の1人が連れてきた十代の娘の視点で書かれた部分と、参加者の女性たちの視点で書かれた部分が交互に出てくるんだけど、章が切り替わっても、全部一人称で書かれているので誰の視点で書かれているのかよくわからなくて、何だかとても読みにくかったのよね。これもトリックの一部でわざとわかりにくくしてるのかなあ、と思いながら読んでいたんだけど、最後まで読んで、これは1人の視点で書かれていると思わせておいて、実は色んな人の視点で書かれていた、と驚かせるどんでん返しだとわかった。私は最初から当然色んな人の視点で書かれているものだと思って読んでいたから、そのトリックには引っかからなかったわけで、何だか拍子抜けだった。参加者が全員女性なのはフランス語の小説だからかなと思った。英語なら男性が入っていてもこのトリックを使えると思う。フランス語も一人称は男も女も"Je"なんだけど、フランス語は男性名詞と女性名詞の区別が厳格で、確か形容詞や冠詞が名詞の性に合わせて形が変わったりするから、そういうところから男女の区別がつきやすいんだと思う。日本語に訳すには都合が良いわね。(フランス語は遥か昔の学生時代に少し齧っただけなので、違ったらすみません。)

 そういうわけで本作はトリックの出来がいまひとつという気がした。一人称で書かれていて主観的にストーリーが語られているせいで、参加者の5人の女性の特徴を把握しづらく、なかなか話に入り込めなかったし、叙述トリックに走りすぎてリーダビリティが犠牲になっていたと思うのよね。フランスで起きた連続殺人との関連性を匂わせたところは良かったし、犯人の正体もなかなかわからなくて、ストーリー自体は面白いので、妙に凝った構成にしなくても良かったのにと思う。まあ、それが売りの作家なんだろうけど・・。

 このブログは翻訳小説の感想を書いているので、いつも原書の情報を併記していて、英語以外の言語の場合も英語版が出ていればそちらを掲載しているけど、M・ビュッシの既刊3作はどれも英語版が出ていたのに本作は出ていなかったのよね。英語圏以外の小説の場合、英語版が出ているかどうかは、作品の良し悪しを判断する一つの目安だと個人的には思っている。

 

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