ゲームの製作に情熱を注いだ男女の青春を描いた物語で、ロマンスではないけれど愛に溢れたストーリー。とても良い話で読みながら何度もウルっとさせられたわ。
交通事故で脚をひどく損傷し入院中の12歳のサムと、入院中の姉をお見舞いに来た11歳セイディは、病院で出会い一緒にスーパーマリオのゲームで遊ぶうちに友達になる。大学生になって再会した2人は一緒にゲームを製作することに。喧嘩して仲違いし何年も絶交状態になったりするけれど、それでも2人の間には絆があり、決して恋人同士にはならないけれど、お互いを深く愛している2人の友情がとても素敵だった。
小柄で見た目も冴えないアジア系のサムは、脚が悪いこともありコンプレックスを抱えた内向的な青年で、他人に弱みを見せず苦悩を自分の内に抱え込んでいるところがいじらしく、つい感情移入してしまう。ハーヴァードの学生寮でルームメイトになったマークスはサムとは正反対の明るく社交的なタイプだけど、サムを気遣い何かと世話を焼き、サムのほうもだんだん彼に心を開いていくのが良かった。サムとセイディのゲーム製作を応援し、裏方として2人を支えてくれる良い奴だった。
MITでコンピューターゲームの製作を学んでいるセイディは、教授と不倫をして不健全な関係で傷ついたり、その波乱万丈な恋愛が興味深かった。彼女がマークスと付き合い始めた時のサムの反応は痛々しく、絶望しながらも必死でそれを隠そうとする彼に同情せずにいられなかった。セイディとサムの関係はとにかく複雑で込み入っていて、お互いを大切に思いながらも憎んだり傷つけ合ってしまう2人の感情がとても生々しく描かれていてストーリーに引き込まれた。
それほどゲームに関心のない私のような読者でも、ゲームの製作過程が興味深く描かれていて面白かった。サムもセイディも欠点は多々あるけれど愛すべきキャラクターで、全く違うバックグラウンドを持つ2人がゲームを通じて友情を育んでいくのにほっこりさせられたし、悩みを抱え、喪失に向き合いながらも精一杯生きているのが感動的だった。各所で2022年のBest Bookに選出されたのも納得で、読んで良かったと思える作品だった。
*これは厳密にはロマンス小説ではないけれど、ロマンスのカテゴリーに入れました。
この作品と同じく2022年のフィクションの話題作だった"Lessons in Chemistry”がドラマ化されて、AppleTV+で配信が始まったので見てみたら面白かった!まだ最初の2話しか配信されていないけど、ショッキングな場面で終わっていて続きが気になるわ~。1960年代の女性化学者の話で、この時代のリケジョは大変だったのね~。
小説が翻訳されていないのが残念。
(追記)文藝春秋から翻訳が出ました