ロマンス小説感想日記

ロマンス&ミステリー小説感想日記

海外ミステリー、ロマンス小説のブックレビュー

いきすぎた悪意 サンドラ・ブラウン

いきすぎた悪意 (集英社文庫)

いきすぎた悪意 (集英社文庫)

  • サンドラ・ブラウン
  • 集英社
Overkill: a gripping new suspense novel from the global bestselling author (English Edition)

Overkill

  • Brown, Sandra
  • Hodder & Stoughton

 

 S・ブラウンの最新作。これは驚愕するほどのどんでん返しはなかったように思うけど、どんでん返しにこだわりすぎて無理のある展開になってしまうと却って白けるので、これくらいで良いと思う。ヒーローの元妻が植物状態で、延命措置を続けるか否かという難しい問題を盛り込んだ意欲作ではあるけれど、それがサスペンスにあまり上手く活かされていない印象で、あと一歩という感じかな。

 ヒーローが元アメフト選手というと「堕ちた刃」が思い出されるけど、キャラクター的には本作のヒーローのザックのほうが好感の持てる人物で良かった。スター選手だった割には地に足が着いていて人柄も悪くない。元妻がとんでもない人で、そんな女と結婚するほど軽率だったのはいただけないけど・・。ヒロインのケイトは検事で、ザックの元妻が植物状態になった強姦事件の犯人の釈放を阻止しようと懸命になっている。2人のロマンスは悪くはなかったけど、いきなり惹かれ合って割と簡単にくっついてしまった印象があり、少し唐突だったかな。ケイトが事件の関係者であるザックと付き合うのは職務上かなりのリスクを伴うことなので、もう少し葛藤があっても良かったと思う。そのほうがロマンスが盛り上がったと思うし。ザックは元妻のことで重圧を感じているものの、それがケイトとの恋愛の支障になることはなく、ストレートに彼女にアプローチしてるところはいかにもサンドラ・ブラウンのヒーローという感じ。元妻に対して深い感情を抱いておらず、責任を果たしているだけなので、ヒーローからそこまでの苦悩は感じられなかった。ヘヴィーなテーマを盛り込みつつも深堀りはせず、あくまでロマンスとサスペンスに注力したストーリーになっていると思う。

 例によって悪役はとことん腐りきった人物で、とんでもないサイコパスだけど、衝動的に行動していて知能犯というわけではないのでそこまで手強い敵ではなかった。ヒロインが検事なので法廷での巧妙な争いを期待したけど、そういうのはなかった。この作者の描くキャラクターは概して善人か悪人かがはっきりしていてわかりやすいけど、もう少し複雑なキャラクターがいても良いとは思う。ロマサスとしては十分面白く、テーマの割にストーリーも重すぎず読みやすいし、ロマンスも適度にHOTで良かった。ヒーローが大男でヒロインが小柄なので、体格差のあるカップルが好きな方に良いかも(?)

 

Read More

 この訳者さんは double jeopardy を文字どおり二重危険と訳していたけど、ここは「一事不再理」という法律用語を使って訳してほしかった。私は昔からアメリカの弁護士ものの小説や映画が好きで、よく読んだり見たりしているけど、裁判に関する文脈でdouble jeopardyという言葉が出てきたらたいてい一事不再理と訳されていると思う。アメリカの裁判制度の基本的な原則だから割とよく出てくるのよね。(ちなみにイギリスではこの原則は撤廃されているらしい。)二重危険だと意味がわかり難いけど一事不再理なら字面を見ただけで意味が推測できるし。(映画の字幕では特に。)

 思うに翻訳小説は文章が回りくどく感じることが多いので、訳者は映画の字幕を見習って、できるだけ簡潔な文章になるように心掛けたほうが、翻訳ものを読む人が増えるんじゃないかしら。最近の翻訳小説はやたらと長いのが多いから、少ない文字数で原文の意味を最大限伝えるように工夫したら多少は読みやすくなるかも。時々この翻訳者はページ数を水増しして原稿料を稼ぐために、わざと長々と文章を書いてるんじゃないかと疑うような作品に出くわすことがあるので。(本作のことではありません。最近のS・ブラウン作品を翻訳している林啓恵さんの文章は読みやすくて良いと思います。) 

 

無断転載禁止 copyright © 2018 BOOKWORM